今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2023年7月号

・新たに発掘されたという、石川淳による日中戦争時に書かれた幻の掌篇「深夜の戀人」が掲載。石川巧の解説も。

・六年ぶりとなった話題の長篇『不確かな壁とその街』が発売された村上春樹。世界的な転換期に「この時代に合致した物語」を書き上げた意味を真摯に問う米国講演全文「疫病と戦争の時代に小説を書くこと」が掲載される。英語版も併録。

・『第36回三島由紀夫賞』は、朝比奈秋「植物少女」。

・【特別原稿】として、國分功一郎「享受の快ーー嗜好品、目的、依存症」が掲載。『暇と退屈の倫理学』から12年、嗜好品の享受の快をカントに遡って論じる待望の続篇。

・平野啓一郎+片山杜秀による対談「三島と天皇ーー『三島由紀夫論』を読む」。『三島由紀夫論』を上梓した平野啓一郎。前代未聞の三島論は、何を更新したのか。その作品と思想を統合して読み解く。

・個人的に注目したいのは、山本貴光「新たなる結合術か、文学滅亡への道かーーテキスト生成プログラムと文学の未来」。ChatGPTによる革新で一気にブレイクスルーした感のあるAI技術によるテキスト生成。文学は果たしてこれからどのような未来を迎えるのか。

文學界 2023年7月号

・【特集】「甦る福田恆存」として、中島岳志×浜崎洋介による対談「神なき世界をどう生きるか」、「読書案内」では、中島岳志「文学の使命」、浜崎洋介「信ずるという美徳」、そのほか、下西風澄「演技する精神へ――個・ネット・場」、片山杜秀「福田恆存・この黙示録的なるもの」、平山周吉「昭和五十四年の福田恆存と、一九七九年の坪内祐三青年」と批評も。さらに、初公開書簡となる福田逸「昭和三十年、ドナルド・キーンとの往復書簡」など、来年没後30年を迎える福田恆存の、今なお新しいその言葉を読む。

・朝吹真理子×犬山紙子×村田沙耶香による鼎談「童話発、BL経由、文学行き」。毎日LINEでやり取りをする三人が語り合う、思い出の中の本たちとは?

・【創作】では、短期集中連載として小林エリカ「風船爆弾フォリーズ」。ほかに、長嶋有「運ばれる思惟」、絲山秋子「神と提灯行列」、水原涼「誤字のない手紙」が掲載。

・4月27日に東京で行われた、哲学のノーベル賞と呼ばれる『バーグルエン賞』授賞式。【スピーチ】として、柄谷行人「バーグルエン賞授賞式での挨拶」を掲載。

群像 2023年7月号

・中村文則による新作「列」を一挙掲載。そのほか、【創作】では、柴崎友香「帰れない探偵 雨季の始まりの暑い街で」、沼田真佑「ながれも」が掲載。

・芥川賞作家・井戸川射子による新連載「無形」がスタート。

・【特集・「論」の遠近法2023】として、岩川ありさ「養生する言葉」、戸谷洋志「メタバース現象考 ここではないどこかへ」、長瀬海「僕と「先生」」、福尾匠「言葉と物」、松村圭一郎「海をこえて」など一挙掲載。

・四月に刊行された『口訳 古事記』(講談社)が話題の町田康。【『口訳 古事記』刊行記念】として、聞き手森山恵によるインタビュー「ふることふみ――言葉の根源に近づく」、上野誠の書評「ファンキーな文体で綴る古事記」が掲載。

・大山顕による連載「撮るあなたを撮るわたしを」が最終回を迎える。

すばる 2023年7月号

・【小説】では、古川真人「港たち」、足立陽「プロミネンス☆ナウ!」が掲載。

・イラスト作家、安達茉莉子による新連載「書きあぐねて山河あり」がスタート。

・池澤夏樹×黒川創による対談「世界を描く、ということ」。

・露によるウクライナ侵攻から一年を迎えた2月に、神奈川近代文学館で行われた講演とシンポジウム「ウクライナの核危機 林京子を読む」。第一部 講演/青来有一「林京子が言い残したこと」、第二部 シンポジウム/川村湊×青来有一×宮内勝典×村上政彦×森詠「いま文学者として何ができるか」を一挙掲載。

以上、2023年6月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。