島崎藤村による『破戒』が60年ぶりに映画化される。前田和男監督がメガホンを取り、主演・丑松役を間宮祥太郎、志保役を石井杏奈が演じる。7月8日に全国公開。

1948年に木下恵介監督、1962年に市川崑監督と名だたる巨匠が映画化してきた、島崎藤村・不朽の名作。瀬川丑松(間宮祥太朗)は、自分が被差別部落出身ということを隠して、地元を離れ、ある小学校の教員として奉職する。彼はその出自を隠し通すよう、亡くなった父からの強い戒めを受けていた。生徒に慕われる良い教師だったが、出自を隠していることに悩み、また、差別の現状を体験することで心を乱しつつも、下宿先の士族出身の女性・志保との恋に心を焦がす。苦しみのなか丑松は、被差別部落出身の思想家・猪子蓮太郎(眞島秀和)に傾倒していく。

主演を務めるのは、近年、映画『東京リベンジャーズ』やフジテレビ系ドラマ『ナンバMG5』に出演するなど、多彩な活躍が目覚ましい間宮祥太朗。自らの出自に苦悩しつつも、最後にはある告白をする主人公・丑松という難役に挑戦する。

相手役・志保を演じるのは石井杏奈。丑松に恋心を寄せつつも、なかなか思いを告げられない控えめな女性を演じる。悩める丑松を支える親友・銀之助役に矢本悠馬。ほか眞島秀和、高橋和也、竹中直人、本田博太郎、田中要次、石橋蓮司、大東駿介、小林綾子など名優たちが顔をそろえ、クオリティの高いドラマを作り上げる。

脚本は『クライマーズ・ハイ』『孤高のメス』『ふしぎな岬の物語』で日本アカデミー賞優秀脚本賞ほか数々の受賞歴を誇る加藤正人と『バトル・ロワイアルII鎮魂歌』で第58回毎日映画コンクール脚本賞を受賞した木田紀生が担当。100年以上も前の原作を現代に蘇らせるべく描き切り、一流のエンターテインメントとして昇華させた。

制作は東映京都撮影所が担当し、明治後期の時代を違和感なく高い次元で映像化。前田和男監督は、椎名桔平主演の映画『発熱天使』(高崎映画祭招待作品)やキネマ旬報「文化映画部門」ベストテン7位の『みみをすます』(教育映画祭最優秀賞・文部科学大臣賞)で知られる。

BLMやジェンダー問題など、2022年の今も差別は世界的な社会問題として大きな影を落としている。日本でも先日、大阪地裁の同性婚を認めない現在の法律について「合憲」であるという判決が大きな話題となったばかりだ。そういう意味でも、島崎藤村が『破戒』で描く差別や人間の根本に迫る心象風景がいま一度映像化したことを歓迎したい。これを機に、原作を知らない人も読んでみてはいかがだろうか。