1919年に出版された長野県の合同歌集『信濃歌選』が、このたび97年ぶりに復刻された。同歌集には窪田空穂や島木赤彦ら当時の長野県内の歌人がこぞって作品を寄せており、県内の近代歌壇史においては非常に貴重な資料となる。部数は1,000部限定。

今回『信濃歌選』を復刻したのは、オリジナルの出版元でもあった住吉屋書店だ。長野県佐久市に店舗を構える住吉屋書店は、1781年の創業以来230年以上にわたって営業を続けている老舗で、現在も地域密着系書店として地元の人々から愛されている。2014年には「長野県百年企業<信州の老舗>」として表彰されており、今回の復刻はその記念事業として行われたものだ。

現在は書店兼ギャラリーとして親しまれている住吉屋書店だが、大正期には印刷所も兼ねていたという。そのため県内外から多くの文人や歌人がしばしば訪れており、その中には若山牧水とその弟子たちの姿もあった。そこで持ち上がったのが、この県内合同歌集だった。『信濃歌選』には長野県内の88人の歌人による約1,000首が収録され、序文を島崎藤村、後書きを若山牧水が手がけた。今から振り返れば非常に豪華な歌集といえるだろう。

古い本の復刻版というと、読みやすく改訂したり附録として資料を加えることも多々あるが、今回の復刻版では当時の活字と挿絵をそのままの形で出版している。どちらにもそれぞれ魅力はあるが、ことこの歌集については時代の空気と信濃ならではの風土を切り取ったこの形がベストだったのではないだろうか。

Amazonにも登録はされているが、限定1,000部の自費出版なので、購入希望者は住吉書店へ直接問い合わせを。