エエエアァクションンヌ!――あるいは、小説をドライブする要素について

応募作品

高橋文樹

評論

5,810文字

欧米のエンターテインメント業界では、ストーリーを動かす要素として「アクション」という言葉が認知されている。この言葉を紹介するとともに、それが小説の速度にどのように関連しているかを論じる。

本誌(破滅派17号)を編集している際に気づかされたのだが、小説の速さ/遅さについての特集を組むにあたって寄せられた幾つかの質問が「速さの定義は?」というものだった。そんなもの私だって知らないのだが……不安なのだろう、執筆者のみならずアンケートの回答者からも寄せられた。愛とは? 正義とは? 我々はどこから来て、どこへいくのか? 誰もその定義を知らないが、銘々好き勝手に書いているではないか。なぜ速さ/遅さについてだけそんなに聞くのだ?

とはいえ、限られたことなら私も言える。まず速度の基準として「出来事の強度」を多くの人が無意識に速度基準にしていることだ。強い出来事(たとえば死)は物語が大きく動いたと読者に感じさせる。セックスも同様だろう。同じ出来事であっても、それらが悪意によってなされた場合(殺人や強姦)であれば、その強度はいや増す。これはある意味でわかりやすい指標だ。ミステリーやホラーは速く、純文学や純愛モノは遅い。私が20代の頃、拙著『途中下車』を読んだ小娘から——私も小僧ではあったのだが——言われた「もっと狂った方がいいんじゃない?」というアドバイスが思い起こされる。

なるほど、そうした単純な強度について注目が集まるのはよくわかる。死んだ? 狂った? すごかった? そう思えるあなたはいますぐこの本を閉じ、文学の本質について薄っぺらい確信を抱いたまま生きていけばよいだろう。

「出来事の強度」が速度であるならば、私が取り上げたいのは、加速度である。死んだかどうか、絶頂にいたったかどうか、悪意があったかどうかはどうでもよろしい。小説の速さにおいて重要な別の指標は、それまで読んでいた地点からどれほど変わったか、という点である。覚えがないだろうか。幼い頃に訪れた遊園地のジェットコースターでフッと胃の腑が浮いたような感覚に驚きを覚えたことが。

アクションという概念は欧米とくにアメリカ合衆国のエンターテインメント業界においてよく知られる概念である。本稿ではこのアクションが加速度の正体なのではないかという仮定のもとに論を進める。

アクションとはそもそも何か?

筆者はふみちゃんねるというYouTubeチャンネルをやっており、そこでフィルムアート社の小説指南本翻訳シリーズを立て続けに紹介した。フィルムアート社は玄人向けの映画関連本を多く出しているが、最近そのラインナップに小説指南本が追加されたのである。以下が紹介した本である。

  • K・M・ワインランド『テーマから作る物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』
  • K・M・ワインランド『キャラクターから作る物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
  • K・M・ワインランド『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にあてはめればより生きる』
  • レス・エジャートン『「書き出し」で釣りあげろ 1ページ目から読者の心を掴み、決して逃さない小説の書き方』
  • アーシュラ・K・ル=グウィン『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』
  • パトリシア・ハイスミス『サスペンス小説の書き方』
  • シーラ・カーラン・バーナード『ドキュメンタリー・ストーリーテリング 「クリエイティブ・ノンフィクション」の作り方』

最初の四冊は小説の書き方講座などで教えている作家たちの手によるもの。ル=グウィンおよびハイスミスはそれぞれ高名でベストセラーを持つ。最後のバーナードはドキュメンタリー映画監督なので、少し毛色が異なっている。

これらの本を読むと、ある一つの傾向が掴める。それは、欧米の――とりわけハリウッドを競合に持つアメリカのエンタメ産業の――作り手たちは、かなり明確に次の要素を重視している。

  1. 三幕構成であること。ストーリーを序盤set up中盤confrontation終盤resolutionにわけて構成していくことはエンタメの定石セオリーとして必須になっており、ここから外れることはかなり危険な賭けとなる。
  2. アクションの重視。ストーリーを動かす要素はアクションと呼ばれる。銃を撃ったり殴り合ったりすることではなく、ストーリーに展開をもたらす要素を指す。会話文・地の文どちらに入るかは重要ではない。
  3. アークの重視。キャラクターの内面およびストーリーが描く変遷を軌跡アークと呼ぶ。このダイナミズムこそがわざわざストーリーを用意する醍醐味であり、小説・映画などの時間芸術の核心である。

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2022年5月16日公開

© 2022 高橋文樹

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