クリストファー・ノーランがアメコミを元にして制作した映画『ダークナイト』では、バットマンが宿敵ジョーカーにある選択を迫られる。愛しい幼なじみであるレイチェルを救うか、それともゴッサムシティの作られた英雄ハービー・デントを救うか? この選択はストーリ上重要な選択であるため、ここでは明かさない。が、パロディビデオについてならネタバレしてしまっても非難されることはないだろう。
そのパロディビデオでは、選択を迫られたバットマンがレイチェルを助けに行くため、iPhoneのマップを起動する。ただ、マップは次々と間違った道を示し続け、ついに辿り着いた目的地で待っているのは見知らぬホームレスである。呆然とするバットマンのはるか後ろで、レイチェルにしかけられた爆弾が炎を上げる。バットマンのヴォイスチェンジャーを表現するためにドスの利いたアテレコをしているのが傑作だ。
このビデオはAppleが満を持してリリースしたiPhoneのマップ機能に関する不満を表明した一連のビデオの一つである。iPhoneのマップはそれまでGoogle Mapを利用していたのだが、突如OpenStreetMapという別の地図データを元にした自作の地図アプリケーションを採用した。多くのユーザーはその質の低さに不満を持ち、Appleの天下は終わったと嘆いた。
巨人が求めた携帯電話の外のコンテキスト
これまで6年に渡って運営されているGoogle Mapの質は高いが、単なる地形データという点に関しては、OpenStreetMapも負けてはいない。異なるのは地図上に配置されたデータとその提供方法である。地図は現実の世界を元に作られるため、メンテナンスが必要だ。駅やお店のようなランドマークは場所が変わることもあるし、営業時間のようなデータも一緒に取れた方がよいだろう。半径1km以内のラーメン屋を検索し、辿り着いた結果その店がすでに閉店していたとわかったら、あなたはマップの質が低いと感じるはずだ。その象徴が「パチンコガンダム駅」である。iPhoneのマップはパチンコ屋を駅として表示した結果、iPhoneユーザー達を苦笑させ、ライバルであるAndroidのスマートフォンを使うユーザーを狂喜乱舞させた。Google Mapの質の高さとはまさにこのようなことが起きないよう蓄積された情報量であり、6年の歳月はだてではないのだ。
AppleにとってGoogleは競合する部分もあるが、場合によってはお互いに協力しあっている。iPhoneユーザーが利用するGoogle検索の広告収入はGoogleに入るし、これまでのiPhoneも質の高いGoogle Mapを利用できていた。だが、それでもなお、Appleが自前のマップを欲しがるのには理由があったということを分析する専門家もいる。
"文脈の中で私達は無力である"へのコメント 0件