隣にいる君を探して 第12話

隣にいる君を探して(第12話)

中野真

小説

3,728文字

僕たちは、本当は、いったい何を見て、何を考え、どこへ向かっているのだろう。 隣にいる君を探して第12話

「コータが警察にしょっぴかれたって言ったら、片岡のおっちゃんはそれでいいって言ってた。あの子の傍にいてやることがお前にできる最良のことだってさ」

「……うん。僕も少し混乱してた。明日たぶんミナに会えるって久保さんが言ってた」

「俺はまあまあ楽しかったけどな。じゃ、そろそろクライマックスといこうか。イッツ・ア・ショータイム!」

 無駄にハイテンションなリョースケに薬物疑惑の目を向けてから僕はモニタに映る片岡ヒサノリを見た。やはり久保が言っていたデータというのはリョースケの元に送られていた。それは彼の告白動画だった。

 

「まず初めに、これは全て私の責任だということを謝罪する。話は十年前に遡る」

 十年前、片岡の運営するクローバーの森には十五人の子供がいた。その中でも藤崎ミナは特に目立つ存在だった、と片岡は話し始めた。子供ながらに美しい容貌と、他人の求めるものを演じる能力に長け、ボランティアに来た大学生を誘惑することさえあったと。藤崎ミナは演技性パーソナリティ障害だと片岡は診断した。演技性パーソナリティ障害とは、他人を魅了しなければ自分が無価値になるという思い込みに囚われてしまう症状で、自分の前にいる者を魅了し注意を惹きつけることが、自分の存在を保つために何よりも重要であると考えてしまう。そのため自分自身であろうとするよりも周囲にアピールする役割を演じてしまい、その役柄は人が羨むヒロインだったり、清らかなお嬢さんだったりすることもあれば、可哀想な被害者だったり、セクシーな娼婦だったりすることもある。他人を魅了し関心を引くためには自分を貶めることや傷つけることも平気でしてしまうらしい。小さい頃に両親から愛情を受けずに育ったり、虐待を受けた子供に見られることが多く、孤児院に来る子供にはしばしば見られると片岡は語っていたが、彼女のそれは特に顕著であり、周囲の人間はすっかり騙されてしまった。櫻井ミナコ、後に引き取られ尾本ミナコと名乗る彼女も、そんな藤崎ミナの虜の一人だった。

2019年8月6日公開

作品集『隣にいる君を探して』第12話 (全13話)

隣にいる君を探して

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© 2019 中野真

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