隣にいる君を探して 第10話

隣にいる君を探して(第10話)

中野真

小説

6,623文字

僕たちは、本当は、いったい何を見て、何を考え、どこへ向かっているのだろう。 隣にいる君を探して第10話

 見上げた木々は空を覆い隠し、僕自身の存在がますます小さく感じられた。

迷いの森がどこまで続くのかは自分次第だ、とかつて出会った旅人の一人が言っていた。

もうどれだけ歩いただろう。その歩き始めがいつだったのかすら、僕にははっきりわからない。

気付いた頃にはもうこの森をさまよっていた。

けれど、この森をさまよい続けても、目の前の景色は何も変わらない。

だからもしかすると、僕はほとんど歩いていないのかもしれない。ただ時間を過ごすことで、歩き続けているように錯覚しているだけ。だって、ここはそういう場所だ。

 風に揺られた木々の間から、時々見える遠くの山。夢の山だ。あれが僕の心を揺さぶるのだ。

それほど遠いわけではないのかもしれない。僕次第で、今日中にそこへたどりつけるのかもしれない。

けれど、それが正しい山なのか、本当に僕の登るべき山なのか。自信が持てない僕には、いつまでもたどりつくことができない。

迷いの森は僕の心を読み取り、僕をさらなる森の奥へと誘い込む。

でも、迷いの森にいる限り、僕には「可能性」という甘い言葉が寄り添ってくれる。これからどの山へも登れる。

選択しないという贅沢。ただし、すべては未来にしかなくて、今この瞬間には、それは僕に何も与えてはくれない。

 水の音が聞こえた。それは危険な信号。その川がもたらすのは、安らぎと諦め。導く先にあるのは、諦めの谷と呼ばれる、平和で安定した世界だと、かつての旅人は語った。

 僕はどうしてここにいるのだろう。諦めきれないからだ。何を?それは、わからない。自分自身を、と言ったらいいのだろうか。

諦めの谷では、みんな同じような顔をして、みんな同じようなことをしているらしい。けれど、彼らはみんな別々の人間で、かつてはこの世界に夢を見ていた旅人たちだった。

 ただ、諦めの谷は悪い所ではない。そこでは命が生まれ、未来が育まれている。

そういった繋がりとは、人が生きる中で最も大切なもののひとつだ。

人生を、かつての旅を、誰かに受け継ぐ場所。そうやって物語が紡がれていく。

そこから僕も生まれ、いずれそこへ帰るのだ。

でも、今ではない。僕はまだ、自分自身だけを生きる自由を持っている。

 歩きながら考える。いや、ここでは歩くことが考えることだと言った方がいいかもしれない。僕は何をしたいのだろうか。

僕はどの光を求めて、この森をさまよい続けているのだろうか。

どっちへ、どれだけ歩けば、自分の求めるものにたどり着けるのか。何もかもがわからない。

 そんなことを考えるほど、迷いの森は深くなる。

木々は大きく枝を伸ばし、葉は空を覆い、僕の太陽を隠そうとする。

しかしそれは僕の心がやっていることなんだ。迷いの森のせいではない。僕が僕の夢を信じられないから。

本当は、やってみればいいだけだって、夢の山を信じればいいだけだって、何度も何度もお姫さまが教えてくれているのに。

 お姫さま。迷いの森のお姫さま。この森でさまよい、自分の夢を忘れそうになった時、僕を助けてくれた人。次の一歩をためらった時、笑って背中を押してくれた人。

「大丈夫だよ」

 お姫さまはいつも、そういって僕の前に現れる。彼女が楽しそうに踊り、歌う姿を見た旅人たちは、いつのまにかそれまでのもやもやを忘れ、彼女と一緒に笑っているのだ。

2019年8月6日公開

作品集『隣にいる君を探して』第10話 (全13話)

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© 2019 中野真

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