知らないIDから連絡が入った。僕は反射で通信に応じた。
「ミナ?」
「三浦コータさんですか?」
知らない女性の声だった。事務的な彼女の言葉を僕はなかなか理解できなかった。
「ミナは無事なんですか?」
「ですから、現在は精神安定剤の投与によって意識がありませんが状態は安定しておりますので。こちらへはいつ頃お着きになられますでしょうか?」
「今すぐ向かいます」
近くの自動運転車を検索しながら階段を駆け下りた。満月が僕を照らす。とっくに日付はまたいでいたのに、妙に明るい夜だった。予約した自動運転車の方へ息を切らして走る。一緒に探してくれた知り合いにミナが見つかったとメッセージを送る。それから何度も連絡が入るが僕は全部無視した。後で謝るから、今はちょっと待って。リョースケにだけ事情をメッセージで送り、あとの対応は任せた。あの手紙から推察される、最悪の事態ではないんだ。ミナは、いや、ミナコは生きていた。
自動運転車に音声認識で行き先を入力し、法定速度の走行に苛立ちを覚えながら僕はミナ、いや、尾本ミナコと二度目に会った時のことを思い出していた。それは学科をまたいだ一般教養の講義でのことで、メタコミュニケーションについての授業だった。僕はAIとのメタコミュニケーションは可能かということについて興味を持っていたのだが、講義は人間同士のメタコミュニケーションについての話ばかりで、シラバスをよく読まずに申し込んだことを後悔していた。そして改めてシラバスを読み返すと、後半にはグループディスカッションなどが予定されていて、そういうことが苦手な僕はますます億劫になった。必修ではない講義なので別に落としてもいいかと思いながら、一応講義形式の授業の最後までは出席していたのだが、その最後の授業の時にグループ決めがあり、ランダムで僕が割り振られた班に、尾本ミナコがいた。
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