この町にきて十年になる。しごとは二度かえた。結婚してこんど離婚がきまった。ここ数日ほど妻はつきものがおちたかおをしている。わたしもからだがかるい。
妻をいないものとしてあつかっていた時期もあった。まったくむしするわけではないが実体のないものとしてなかば亡霊と接するここちで妻と対峙する。そういうことがここ三年ほどつづいていた。
ある日亡霊から離婚をきりだされた。つきだされた離婚届だけがわたしのげんじつであった。そうしてわたしはそれに応じた。
離婚がきまってあべこべに妻は実体をもちはじめた。死んだはずの女が肉体を有してわたしの家にいる。ついぞかんじることのなかった妻への肉欲がにわかにおどりはじめた。
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