不満

巫女、帰郷ス。(第17話)

吉田柚葉

小説

3,111文字

あまりにも暑いです。暑すぎる。涼しくなって欲しいです。

さいきんになってとつぜん体調をくずすひとがふえた。なんにちもつづけてしごとをやすんだり休職したりする社員がひとりやふたりではない。私が部長をしているプロモーションチームはもとは八名で構成されていたが今やまいにち出勤してくるのは四名だけになった。下の階にあるCFチームも半数ほどが体調不良でやすんでいるらしい。社員のほとんどが定時ですぐにかえるような会社ゆえそれほどストレス負荷がおおきい業務とも思えない。謎と言うと管理者失格なのだがしかしいかにも謎である。

定時すぎてから社長によびだされた。社員の体調管理ができていないので朝礼のときにラジオ体操をしてはどうかとのことだった。おしつける言い方ではないが私に拒否権はない。「こんど出すサウンドバーのサンプルがあるのでそれをつかいましょう」と私は提案した。社長はそれで満足であるらしかった。こんなことをはじめたらまた柴田くんから顰蹙を買うだろう。かれにかぎらず岡崎さんだって飯島くんだってほんとうはこの会社にうんざりしているのだ。

もどると飯島くんがまだ残業していた。かれはここのところずっとサウンドバーの商品ページをライティングしていた。私はラジオ体操の件を飯島くんにつたえた。聞きながら飯島くんの顔がくもるのがわかった。

「社内のスマホにつないでラジオ体操の音源をながすということですね」

と飯島くんがかくにんした。

「そうだ。まえにサンプルテストしたときにうまく接続できなかった気がしたからちょっと心配で」

「いろいろやってつながるようにはなりましたけど……。ラジオ体操はもうあしたからはじめるんですか」

「そうだ」

文句が出るまえにさっさとはじめてしまいたかった。

飯島くんがおおきくため息をついた。「なんだかなあ……」

私はちょっとはなれた私のデスクにもどった。そうしてスリープ状態のパソコンをさわってニュースサイトを表示させた。九州は大雨がひどいらしい。

「八木さんがいてくれたらなあ」

と飯島くんがつぶやいた。八木くんは飯島くんの先輩ライターである。先月末に大手にひきぬかれるかたちで退職した。優秀だったしムードメーカーでもあった。柴田くんも岡崎さんも八木くんを尊敬していた。社長はことのおおきさをよくわかっていないが私のチームははっきり支柱をうしなったのだった。部長としてなさけないはなしだがじじつなのだからしかたがない。

それから二時間ほどして飯島くんが退社した。私はとじまりをして会社をでた。二十一時すぎだが蒸しあつくて肌着が肌にはりつく。

駅はすぐそこだ。各駅停車でしかとまらないちいさな駅である。二〇分に一本のペースでしか電車がこないのだがこのときは折よくホームに出るとどうじに電車がきた。

2023年7月17日公開

作品集『巫女、帰郷ス。』第17話 (全29話)

巫女、帰郷ス。

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© 2023 吉田柚葉

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