ネッシーはいるよ。

合評会2022年11月応募作品

曾根崎十三

小説

4,696文字

11月合評会「童話」応募作品。
対象年齢は小学一年生。ネッシーはいるよ。本当にいるよ。
合評会には現地参加予定です。

どこかの小さな町に、「ねずみいけ」という名まえのいけがありました。その名まえをきくと、みんな、ねずみのかたちをしているからねずみいけというのかな、とおもうのですが、ねずみのかたちにはにてもにつかない、ふしぎなかたちをしていました。もしかしたら、大むかしの人はこのかたちをみて、ねずみだとおもったのかもしれません。大ぐまざだって、小ぐまざだって、ぜんぜんくまのかたちには見えませんもんね。

そのねずみいけに、いつからか、むかしむかしのくびのながーいきょうりゅうの生きのこりがいるというウワサが小学校でながれるようになりました。そのきょうりゅうのことをみんな「ねずみいけのネッシ―」とよんでいました。スコットランドの「ネスこ」というみずうみにいる「ネッシ―」にちなんだものでした。

その日もこの町の小学校ではネッシ―のはなしでおおもりあがりでした。クラスのなつみちゃんのいもうとが、きのうネッシ―をみたというのです。なつみちゃんはいちやく人気もの!

「でも、ネッシ―はスコットランドのネッシ―のにせものなんだぜ。だからいくら見たってにせものはにせものさ」

みんながたのしくネッシーのはなしをしているところに、よしおくんがとくいげにいいにきました。しっていることをみんなにおしえてあげようとおもったのです。

「うっそだー。ねずみ池のネッシ―がほんものだよ。スコットランドなんてすごくとおくのくになんてかんけいない」

クラスのみんなが口口によしおくんをせめます。よしおくんはまちがったことはひとつもいっていないのですが、みんなからはじき出されてしまいました。どうしてだろう、とよしおくんはかなしくなりました。よしおくんはみんなとなかよくしようとして、はなしかけるのですが、いつもなぜだかおこられてしまいます。よしおくんって、へんだよね、とよくヒソヒソといわれてしまうのでした。

へんなことはわるいことではない、とお母さんもいっていたので、それできずつくよしおくんではありませんが、やはりみんなとなかよくできないのはかなしいことです。

よーし! こうなったらネッシ―を見つけてみんなにじまんしてやる!

よしおくんはやる気まんまん。

というのも、みんな、かぞくや、ともだちのともだちや、おにいちゃんのともだちや、おねえちゃんのともだちのおとうとのともだちが見たというはなしばかりで、「わたしが見た!」「ぼくが見た!」というはなしは一つもきかないのです。おかしいな、とよしおくんはおもいました。

その日から、まい日、よしおくんはねずみいけへいきました。まい日、まい日いきました。大すきなテレビもがまんして、しゅくだいもあとまわしにして、よしおくんはまいにちねずみいけでネッシ―を見つけるためにうろうろしていました。

月よう日、火よう日、水よう日、木よう日、金よう日、土よう日、日よう日、そしてまたつぎの月よう日がなんかいきたことでしょう。

よしおくんはひとりぼっちでじっとネッシ―がでてくるのをまちました。なんどか、ネッシ―をさがしにきた子どもたちがいましたが、みんなともだちとわいわいたのしそうにネッシ―をさがしては見つけられないままかえっていくのでした。

あんまりにもよしおくんがまい日ネッシ―をさがしにいくので、おかあさんも「ネッシ―なんていないのよ」とあきれがお。

よしおくんも、もしかしたらほんとうはネッシ―なんていないのかもしれない、とおもってきていたので、なんだがおなかのそこがぞわぞわとして、「そんなことないよ! ぼく、ネッシ―にあうんだ!」といじになって、おかあさんに大きなこえをだしてしまいました。おどろいたような、かなしそうなかおをしたおかあさんをおいて、よしおくんはそのまままたネッシ―を見にいってしまいました。もうよるおそくなって、そとはくらくなってきています。

さむいな、こころぼそいな、とおもいながらも、よしおくんはずんずんすすんでいって、ねずみいけにたどりつきました。もう、ばんごはんのじかんなので、子どもも、おとなもいません。ねこもからすもいません。みんな、おうちにかえってしまったのでしょう。

よしおくんはじぶんがなにをしているんだか、わからなくなってきて、むねのおくがぎゅっとおもくなりました。のどがあつくて、なみだがでてきそうです。

「ネッシ―にあいたい!」

よしおくんはいけにむかってさけびました。

すると……

ぶくぶく、ぶくぶく。

ぶくぶく、ぶくぶくぶく。

ざばー!

ながーいくびが水のなかからあらわれました。たかいたかい小さなあたま。つぶらなひとみがこちらをじっとみつめています。こんな大きなどうぶつ、いるわけがありません。そう、ほんもののくびながりゅうです。

ネッシ―だ! ほんとうにいたんだ!

いないかもしれないなんておもってごめんね、とよしおくんはおもいました。

にせものなんていってごめんね、ともおもいました。

ネッシ―はよしおくんをじっと見ていたかとおもうと、きゅうにこちらへかおをぐっとちかづけました。

たべられる!

よしおくんはとっさにあたまをかばいましたが、大きなかげがよしおくんをつつんでいるだけで、まるでたべられる気はいはありません。おそるおそる手をどけて、かおをあげると、ネッシ―はただただこちらをじーっと見ていました。じっとじっと見ていました。

そして、その目はどこかさみしそうでした。

「よしおー!」

うしろからおかあさんの声がします。

「お母さん!」

よしおくんがふりかえると、ざばぁと大きなおとがしてみるみるうちにくびながりゅうはいけのなかにもどってしまいました。お母さんはいきをきらせながら、ぎゅっとよしおくんをだきしめました。どうやら、ネッシーは見えなかったみたいです。

「ごめんなさい」

よしおくんはおかあさんにあやまって、二人でいっしょにかえっていきました。あたたかいおかあさんの手をにぎって、よしおくんはあんしんしましたが、どこかわるいことをしたようなきもちがしました。もちろん、おかあさんにではありません。そう、ネッシ―にです。あのさみしそうな目がこころのどこかにずっとひっかかってしまうのです。

よしおくんはおうちにかえってばんごはんをたべて、しゅくだいをして、おふろにはいって、おふとんにはいりました。でも、ずっとどこかでネッシ―のことがきになっていました。

いまおもいだしても、ゆめみたいです。あれはほんとうのことだったのでしょうか。あんなに大きな生きものがいるなんて、よしおくんはいまのいままでしりませんでした。

おやすみなさいのあいさつをして、ふとんでどれくらいじっとしていたことでしょう。

よしおくんは、おとうさんにもおかあさんにも見つからないように、そーっとまどからぬけだして、またねずみいけへとむかいました。

ねずみいけではシーンと水がゆれていました。さっきネッシ―を見たときよりも、ずっとひえこんでいていて、ハクシュン、とよしおくんはくしゃみをしました。

「ネッシ―!」

さけんでも、あいかわらずいけは、しんとしています。

「おーい、ネッシ―」

もういちど、よんでみてもへんじはありません。

「ネッシ―にあいたいんだよー!」

大きなこえをだしても、ただただ、かぜがよしおくんのほっぺをひやすだけでした。

ためいきをついて、ひきかえそうとすると……

ざばぁ

さっきよりは小さないきおいで、ながーいくびが、すこしだけ、にゅっとでてきました。

「ネッシ―!」

やっぱり、ネッシ―はさみしそうな目をしています。人とちがって、ネッシ―はわらったりないたりすることはできません。でも、さみしそうなことはなぜだかわかったのです。

よしおくんはいけのさくから手をのばしてネッシ―のあたまをなでようとしました。おばあちゃんのいえの犬みたいに、よしよしとおもいっきりあたまをなでてやろうとおもったのです。でも、よしおくんのみじかいてではとどきません。それに、おもいっきりあたまをなでるにはよしおくんのからだは小さすぎます。

そうだ!と、よしおくんはさくをよじのぼりました。

ばっ、しゃーん。

よろけたよしおくんは、いけにまっさかさま!

ぶくぶくとまっくらやみのつめたいいけへしずんでいきます。くるしい、いきができない!

ぼやけた水の中で大きな大きなかげがうごくのがえます。ながーいくび。おおきなからだ。てあしはしなやかなヒレ。ねずみいけがこんなにふかいとはだれもおもっていませんでした。ふかくて大きいいけだから、こんなにも大きなネッシ―が見つかることなくくらしていられたのでしょう。

こんなに大きくなるまでなん年かかったんだろう、よしおくんはかんがえました。

ぼくのおとうさんが子どものときも、おじいちゃんが子どものときも、そのまたおじいちゃんが子どものときも、そのまたそのまたおじいちゃんが子どものときも、ネッシ―はずっとずっと生きてきたんだろうなあ。ここでずっとひとりで。

ヒレでは外をいけのそとをかけまわることもできません。いけのなかをただぐるぐるとおよぐばかり。

ざばー!

よしおくんはネッシーのせなかにのせられて、いけからとびだしました。ぴゅー、とくじらみたいに口から水がでてきます。よしおくんはおきあがって、ネッシ―のせなかにだきつきました。おかあさんがよしおくんにしてくれたように、ぎゅっと、ネッシ―をだきしめてあげたくなったのです。ありがとう、とか、いろんなことをつたえたかったのです。すこし、ネッシ―があたたかく、うれしそうにしたように見えました。

はっ、ときがつくとよしおくんはふとんのなかにいました。

ゆめだったのでしょうか。どこからでしょう。さいしょにネッシ―を見たときからでしょうか。でも、ゆめじゃない、とよしおくんはおもいました。だってあの、はっとするような目はゆめにしてはあんまりにもさみしいから。

つぎの日、よしおくんはみんなにネッシ―とあったことをじまんしました。

「えー。うっそだー」

うらやましがる子もいましたが、しんじない子がほとんどでした。

「ほんとうだよ。じゃあ、ネッシ―のにがおえをかいてあげる」

よしおくんはクレパスでネッシ―のえをかきました。はいいろの大きなからだ。ながーいくび。そしてさみしそうなくろい目。なかなかよくにています。

「どうだ!」

そんなの見てなくてもかけるよ、という子もいれば、すごーいやっぱりほんとうなのかな、という子もいます。

できあがったネッシ―のえをみていると、なんだかあのさみしい目をおもいだしてしまって、よしおくんはなんだかそのさみしさをもらったみたいに、さみしくなってきました。よしおくんには、なにができるでしょうか。

よしおくんはがまんできなくて、せっかくできあがったネッシ―のえにまた白いクレパスでぐりぐりとえをかきつづけました。よしおくんはネッシ―にプレゼントがしたかったのです。

「やっぱりよしおくんへんなのー」

みんながいいます。でもいいのです。

よしおくんはネッシ―に大きなはねをつけました。このはねがあれば、ネッシ―はどこへでもいける。いけいがいのいろんなところを、いっしょに見てまわれる。ネスこのネッシ―にだってあいにいける。ネッシ―にくびながりゅうのともだちができるかもしれない。もう、さみしい目をしなくていいのです。

よしおくんは、えをもって、きょうしつをとびだしました。まだおひるやすみだよ、とみんなが口口によびとめますが、よしおくんはしらんぷり。

ともだちに、このえをどうしても見せてあげかったのです。

「ネッシ―!」

よしおくんが大きなこえでよぶと

ざばー!

と、どこかで音がしました。

2022年11月9日公開

© 2022 曾根崎十三

これはの応募作品です。
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"ネッシーはいるよ。"へのコメント 10

  • 投稿者 | 2022-11-18 05:43

    恐竜以外の生物は成長期が終わるとそれ以上身体が大きくならないが、恐竜(含む恐竜時代の大型爬虫類)は死ぬまで大きくなり続けたのだそうです。だからあんなに大きかったらしいです。しらんけど。

    「へんなやつ」を肯定するには色々なものを犠牲にしないといけないんだなあ、と思わされる物語でした。よしおくんがネッシー否定派から肯定派に変節するダイナミズムが無理なく描かれていたのが良いと思いました。

  • 投稿者 | 2022-11-18 22:55

    Puff, the magic dragon という歌を思い出しました。古い(笑)
    この物語の素晴らしいところは、ネッシーに羽をつけてあげるところですね。もうネッシーは寂しくない、この一言で世界でたった一つの童話になったと思いました。

  • 編集者 | 2022-11-19 16:03

    ネス湖のネッシー、どうなったんでしょうか、気になります。また陰湿ないじめが始まるのかとハラハラしましたが、ハッピーエンドでほっとしました。

  • 投稿者 | 2022-11-20 08:10

    今回の合評会は作者の違った一面が見られて良いですね。よしお君も成長したから場の空気を読むようになるのかしら。大人になってもこのままでいてほしいと思いました。

  • 投稿者 | 2022-11-20 09:31

    最近ある有志の方から、話に余韻があるっていう事を言われたことがありまして。私はそういうの全然わからないんですけども。あ、ありがとうございます。っていう感じだったんですけども。この話の最後のざばー!がそれかなって。これが余韻となるっていう事なのかなって。

  • ゲスト | 2022-11-20 11:36

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  • 投稿者 | 2022-11-20 12:55

    変態路線を封印した、さわやかな読後感。こういう作風もうまい。18号の校正をしすぎたせいか、長音の大部分がダッシュになっているのを見つけるたびに太ももの裏あたりがモゾモゾした。

  • 投稿者 | 2022-11-20 14:32

    ねずみ湖のネッシーだけあえて音引をダッシュにしているのかと思ったが、そういう使い分けがされているわけでもなかった。執筆時の表示フォントを明朝系にしておくと音引のエラーがすぐわかるのでオススメです

  • 投稿者 | 2022-11-20 20:17

    稀に見る綺麗な曽根崎さんでした。

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