庭の穴

早朝学植物誌(第2話)

多宇加世

小説

2,185文字

暗い夜道。白線。馬の顔の壁。いつからかずっと走り続けている。読み切り掌編作品。

今頃、白蟻屋さんは帰っただろうか。

私の走る沿道は右も左も無数の馬の顔でできた壁だった。ここは厩舎かと思わせるがここは道路で、私は前の人のしっぽを踏まないように、二本の脚を使って走っていた。ずっとそうしていた気がする。腕も交互に前に出しながらずっと――。走行ペースは一定でなく、唯一決まっているのは街灯に照らされてぼうっと浮かび上がった白線を辿っていくことであった。白線は、直線が続くとのびて細くなるのがはらはらしたが、カーブをする時は逆にぎゅっと太くなり、そのおかげで曲がる際の遠心力でぶれても線上から飛び出さずに済んだので焦ったりしなかった。沿道には馬がひしめき合っていた。馬はみな黒く、目と目のあいだ、鼻から額にかけてまっすぐの白い線があって、それは私の走る道の白線と似ていたが、違うのはそれがペンキでなく毛で描かれていたことだった。なかにはあたかも白毛が生えているようにペンキで白く塗られている顔もあって、それに惑わされて道路の白線から馬の顔のほうへ逸れて行って、そのまま帰って来ない者もいるということだった。

前を走る人のしっぽは束になってベルトに挟んで腰に固定してあった。黒く染めた玉蜀黍の毛だというのは、早い段階で自分のお尻に手をやってみて、自分にもくっついているそれを触った感じで分かった。玉蜀黍の毛の中でも選りすぐりの長い毛であろう、腰から地面まである。恐らくであるが、私の後ろを走る人も、私と同様、しっぽを目安にしているのではないだろうか。私は前の人のその尾を踏まないように走っていたが、それはかえって白線から外れない注意喚起ともなっていた。目の前の白線の上を揺れるしっぽについていけばよかったからだ。何度も言うが速度が一定でないため、ペースを乱して踏んでしまわないことだけを考えればよかった。と、沿道の馬の顔が途切れ、人間の顔が見えたが、それは私の母だった。母は病気で外には出られない身であるはずなのに、たった一人でこちらに手を振っていた。

母が沿道から叫んだ、

「あなた、一時間、時間を間違えてない?」

私は駆け寄って足を止めて、

「そんなことないよ、お母さん。白蟻屋さんは帰ったの?」

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2019年10月10日公開

作品集『早朝学植物誌』第2話 (全10話)

早朝学植物誌

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© 2019 多宇加世

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