白の玉(1)

安藤秋路

小説

1,365文字

・1・大学生

 

ガッタン、ゴットン。ガタン、ゴットン。「次は成田、成田。終点成田です。」

白(はく)は二十歳になった。特に、とりえもなく、目標もない。ただの大学生だ。毎日毎日大学に通ってはいたが、勉強なんかはしなかった。毎日大学に通っているという事実で、将来への不安を打ち消していた。

歌子(うたこ)は優秀な大学生だ。そして、白の彼女だ。勉強が得意で、都内の大学の法学部に通っている。彼女の父親は、弁護士事務所を開業し、幾つかの事業を展開するやり手の弁護士だ。いつも「俺は勝ち組だ。」と言っている。歌子の母親とは早くに離婚していたが、一人娘の歌子を本当に大切に育ててきた。もちろん白とも面識があり「お前みたいな負け犬予備軍に歌子はやれん」ともう既に百回は言われている。しかし、表には出さないが本当の彼はとても親切で、世の中の誰一人として見捨てられない、そんな人物だった。法学部に通う歌子も、もちろん弁護士志望である。白と歌子は付き合いはじめて三年で、娘思いな父親の嫌味に耐えながらも、特に問題もなく今まですごしてきた。白は、歌子のことで何か文句を言ったことはなかった。そして、一つのことを除いてなんの問題もなかった。しかし、その問題も白にとっては、全然真剣な問題ではなかった。

白の住んでいる成田から大学まではかなり遠く、電車を乗りついで二時間かかった。べつに遠くの大学に通いたいわけではなかったが、白の家はまったく裕福な家庭ではなかったので自宅から通うしかなかった。白は電車の中でよく雑誌やら本を読んだりして時間を潰した。ほとんどが科学雑誌で、たまには小説なども読んだ。雑誌には白の知的な好奇心を絶妙にクスグル記事があり、小説には雑誌とは違うどこか美的な美しさを感じた。今、白はnewtonという科学雑誌を読んでいた。今月のnewtonには彼の知らない情報でいっぱいだった。ここにいる人たちは、この事実を知っているのだろうか。自分が住んでいるこの星のこと、そして、自分たちを取り巻いている宇宙のことを。

白は大学に到着し、今日もボーっと講義を聞き、昼飯を食べた。最近では何をするために大学に行っているのかわからなくなっていた。白の楽しみは完全に読書になっていたし、専攻の講義はまったくおもしろくなかった。ほとんど読書するために大学に通っていた。白は雑誌以外ではとくに短編小説が好きだった。今日は「パの取れたパチンコ屋再襲撃」という短編小説を読んでいた。この本を読むのは三回目だった。そろそろ気に入るページができる頃だった。白はビリビリと小説のページを破った。特にヒステリーを起こしたわけではない。こうすることで、白は落ち着くことができるというだけだった。白はこれまでに、こうやって何冊もの本のページを破ってきた。そのとき読んだ本の、特に気に入った一ページだけを破った。はじめは、本のページの破れたところをあそんでいたら、たまたま破れてしまっただけだった。でもそのうち自分で破くようになってしまった。今ではファイル1冊分たまってしまい、白の部屋にきちんと保存されている。小説のページが少しずつたまっていき、いつしかそのファイルは白の宝物になっていた。穏やかな大学生活は、風をしっかり受けて滑らかに進む船のようだった。

2012年5月21日公開

© 2012 安藤秋路

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