岡本尊文とその時代(十一)

岡本尊文とその時代(第11話)

吉田柚葉

小説

6,163文字

私の筆は、私の意識を超え、世界と繋がっているかの如くであった。

宮崎氏の申出には二三日中に返事するとだけ伝えて私は帰宅した。

着替えもせず、書斎の机に向った。忌々しくも、そこには未だ尊文の中学時代の作品(?)が陣取っていた。それらを横にやると私は、宮崎氏から貰った『晴天の会フォーラム』のチラシと『2017年の過ごし方』を並べた。老眼鏡を掛けた。先ずチラシに目を通す事にした。

プログラム中、とりわけ私の目を引いたのは、「猪原誠一郎講演会」と云う文字列であった。が、宮崎氏に拠るとこれは、必ず行われるとは限らないらしい。一昨年のフォーラムでは、講演会開始の一時間前に、「皆の気持が一つになっていない。やる意味は無いと判断した。」との連絡が猪原から本部に入り、突如として講演会が中止になったと云う。私も一生に一度は言ってみたいものだ。……

 

――『晴天の会』の会員の中に尊文のゴーストライターがいると睨んでいます。

 

帰り際に宮崎氏はそう言った。その理由を問うても、「兎に角、いるのです。」の一点張りであった。そんな氏のおもわせ振りの態度に私は煮え切らぬ感じを覚えた。否、これはいっそ怒りと言えた。すると、『島崎藤村と中上健次』のテクストの穴とおもわれる処が忽ちにして想起され、二重に怒りが沸いて来るのであった。

私は、年甲斐も無く、揺さぶられていた。そうおもうと、哄笑が沸いた。すると、少しく馬鹿馬鹿しくなった。

しかる後、十二月の予定を確認した。開催日の十二月八日は金曜日である。一応スケジュールは空いている。平日に行う理由を宮崎氏に問うた処、

 

――猪原が独断で決めているので詳しい理由は判りませんが、フォーラムの開会式で司会者が必ずする話があるらしいのです。曰く、「この日この時間にここに集まれると云う事が大事なのです。それが『気』に合っている、と云う事なのです。ですから今日ここに来る事が出来なかった方たちは、やはりどこか世界とズレが生じているのです。」

 

と云う事に成るらしい。なるほど、怪しい。あんまり怪しい。だが何にしても、「気学」と云う物を一寸でも知らない事には、何事をも口にしてはならぬ気がした(無論、私とて朱子学の類は一通り勉強して来たつもりであったが、「気学」は、それとは質を異にしているらしく見えた)。

2019年5月11日公開

作品集『岡本尊文とその時代』第11話 (全41話)

岡本尊文とその時代

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© 2019 吉田柚葉

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