犇めく若人、揺れ、回る。或るいは叫び、或るいは跳んで、普段は死んだ魚の目にも、燦然眩しい光が灯る。取り取りに染め、取り取りに装う頭……また頭。天に突き出す両腕は猛々しくも尖ったようで、大東京の六本木、地階に在って見下ろした、其の光景は針地獄。無間地獄か、煉獄なのか、其れとも此処が天国か。善いも悪いも彼岸にやって、踊る人々、狂宴態。殺し合いこそ良く似合う。
舞台は男が二人。一方は凡庸此処に極まれり、という具合の無名氏で。もう一方が、顔も頗る華美で、巨躯怪異。冠った帽子にGDC。
背の高いのは、鋭い灯光一身に受け、舞い、歌い、そして亦、舞う。颯と手を振り、翻すなら、伏せた口から韻律を績ぐ。絞った声は夙に緩んで、聞く者は胃の腑を落とし、悦に入る。急転直下、再び声を絞り上げれば、聞く者は髄を引かれて天にも昇る。手の平煽る、御客は叫ぶ。身の丈の高い美丈夫、宵と夜の間に勝負。
最早相手は気勢も薄れ、績ぐ詞も覚束無い。咬ませ犬なら意地すら無い、竟に退ゝ引き下がる。
さあさ、準備は整った。視られい兄弟、いざ視られ。宵の高みにもう一勝負。
早る調子に誘われて、不整合な二人の男、舞台の袖から聳と現れる。持てる武器の尻を上げ、揺れつつ進む。乱鏡球が光を散らす、聴衆は髪振り乱す。
ようこそ野郎共、混沌夜 前座の下手糞にもう飽きてない
今宵荒れた謡の戦場 満を持して主役登場
規則無用の戦闘なら本望 耳糞穿って聞けこの節回
肥満様お先に先ずは俺だ 小さな巨人枯葉皆惚れな
刻む韻律は無限大 広辞苑でももう限界
超高性能韻律機械 ぐいと引っ張る音楽情勢
極小身体で魅せる高機能 日本の技術を証明すべく
邪魔な雑魚役者潰と去なす 小僧背伸びの罵詈雑言ちと粋す
選手交代、韻律外さない 常時は起きてらんない一晩中
でもこんな夜は汗も輝く 其の隅ゝに韻律行き渡る
決める音韻は飽くまで渋く 太く熱く危く其の名泡沫
外見に因らず多い語彙 即興なんかも演らせりゃ上手い
お喋りはあんま好きじゃねえ とはいえ喧嘩も見過ごせねえ
掛かる火の粉は払うが自分流 伊達に任侠映画視ていねえ
楯突く馬鹿は見る目が無え 襁褓はちゃんと変えたか赤子
ちゃんと作って見せな汝打拍 でなきゃとっとと帰んな自慰無職
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