日本文学振興会が主催する「第170回芥川龍之介賞・直木三十五賞」の選考会が17日、都内で行われ、芥川賞に九段理江「東京都同情塔」(新潮2023年12月号)、直木賞に万城目学『八月の御所グラウンド』(文芸春秋)と河﨑秋子『ともぐい』(新潮社)がそれぞれ選ばれた。

 九段は1990年、さいたま市生まれ。2021年に「悪い音楽」で文学界新人賞を受賞しデビュー。23年に「Schoolgirl」で芸術選奨文部科学大臣新人賞、同年「しをかくうま」で野間文芸新人賞を受賞した。今回、「Schoolgirl」に続き2度目の候補で賞を射止めた。

 受賞作は、ザハ・ハディドの国立競技場が建設されたという歴史改変の近未来物語。東京都心に「シンパシータワートーキョー」と名づけられた高層刑務所の建設が計画され、その設計を担う女性建築家を主人公にポリコレや、生成AIなど現代社会の抱える問題を批評性あふれる視点で描いた。

 芥川賞候補作品は、受賞作のほか、安堂ホセ『迷彩色の男』(文藝秋季号)、川野芽生『Blue』(すばる8月号)小砂川チト『猿の戴冠式』(群像12月号)、三木三奈『アイスネルワイゼン』(文學界10月号)の五作がノミネートしていた。

 河崎秋子は1979年、北海道生まれ。大学を卒業後、酪農を営む実家で働きながら執筆活動を始め、2014年に「颶風ぐふうの王」で「三浦綾子文学賞」を受賞しデビュー。2019年『肉弾』で「第21回大藪晴彦賞」受賞後は作家としての活動に専念。直木賞は、22年『絞め殺しの樹』以来、2回目の候補での受賞となった。

 受賞作『ともぐい』は、明治時代後期の北海道東部を舞台に、人里離れた山の中でひとり野生の動物を撃って暮らす猟師の物語。どう猛なクマと、執念深く追い続ける猟師との命の駆け引きが臨場感あふれる描写で描かれる。

 万城目は1976年、大阪府生まれ。京都大法学部卒。『鴨川ホルモー』で2006年にデビュー。『鹿男あをによし』や『プリンセス・トヨトミ』などで直木賞候補入りしたが、受賞には至らず、今回まで実にノミネート6回目での受賞となった。

 『八月の御所グラウンド』は、都大路にピンチランナーとして挑む、絶望的に方向音痴な女子高校生の女子全国高校駅伝と、借金のカタに、早朝の御所グラウンドで「たまひで杯」に参加する羽目になった大学生の謎の草野球大会の二編を収録。

 直木賞候補作品は受賞作のほか、加藤シゲアキ『なれのはて』(講談社)、嶋津輝『襷がけの二人』(文藝春秋)、宮内悠介『ラウリ・クースクを探して』(朝日新聞出版)、村木嵐『まいまいつぶろ』(幻冬舎)の6作品がノミネートしていた。