新潮文芸振興会が主催する、第35回三島由紀夫賞・山本周五郎賞の候補作が決まった。それぞれ5作ずつが候補として選ばれた。

三島賞には、『第73回読売文学賞』小説賞受賞をはじめ、第2回みんなのつぶやき文学賞国内でも第1位に選ばれるなど、話題を呼んでいる川本直の小説デビュー作『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』や『第166回芥川龍之介賞』候補となった九段理江『Scoolgirl』、『第45回すばる文学賞』で選考委員をはじめ、業界での評判も高かった永井みみの『ミシンと金魚』などが選出された。

なんと言っても注目は、すばる文学賞で佳作だった石田夏穂の『我が友、スミス』に芥川賞候補で出し抜かれるというかたちになった、永井の『ミシンと金魚』が候補にあがったことだ。介護ヘルパーとしての経験を生かした、認知症の老女の語りという独特の文体で選考委員が満場一致で「傑作」と言わしめた『ミシンと金魚』がどう評価されるか。

山本賞には、映像化された『グッモーエビアン!』(新潮社)などで知られる吉川トリコの『余命一年、男をかう』、『第43回吉川英治文学新人賞』を直木賞候補にもなった『スモールワールズ』で受賞した一穂ミチの『砂嵐に星屑』、さらに『凍てつく太陽』で『第21回大藪春彦賞』を受賞している葉真中顕の『灼熱』などが選出されている。

こちらは、がん告知を受けた女性がホストを文字通り金で買うという導入から、堅実に生きてきた主人公の片倉唯を通して、人生とはなにかを問いかける吉川の『余命一年、男をかう』に注目。一穂の『砂嵐に星屑』もテレビ業界を舞台にした連作短編となっており、連作短編として高く評価された『スモールワールズ』と同じくこちらの評価も気にかかる。

なお選考会は5月16日に都内で行われる。候補作は以下。

【三島賞】

・金子薫『道化むさぼる揚羽の蝶の』(新潮社)
・川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』(河出書房新社)
・九段理江『Scoolgirl』(文芸春秋)
・岡田利規「ブロッコリー・レボリューション」(新潮2月号)
・永井みみ『ミシンと金魚』(集英社)

【山本賞】

・吉川トリコ『余命一年、男をかう』(講談社)
・葉真中顕『灼熱』(新潮社)
・砂原浩太朗『薫家の兄弟』(講談社)
・一穂ミチ『砂嵐に星屑』(幻冬舎)
・一條次郎『チェレンコフの眠り』(新潮社)