前川ほまれ『藍色時刻の君たちは』(東京創元社)が、KADOKAWAの主催する「第14回山田風太郎賞」を受賞した。

 同賞は、戦後日本を代表する大衆小説家の山田風太郎の独創的な作品群と、大衆性、ノンジャンル性、反骨精神など、山田が貫いた作家的姿勢への敬意を礎に、有望な作家の作品を発掘顕彰するために創設された。毎年9月1日から翌年8月31日までに刊行された長編および短編の文芸作品(ミステリ、時代、SFなどジャンルを問わない)の中から選ばれる。

 今回は最終候補作品として、受賞作のほか、白井智之『名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件―』(新潮社)、高殿円『忘らるる物語』(KADOKAWA)、中脇初枝『伝言』(講談社)、吉川トリコ『あわのまにまに』(KADOKAWA)があがっていた。

 前川は1986年生まれ、宮城県東松島市出身。看護師として働くかたわら小説を書き始め、2017年「跡を消す」で第7回ポプラ社小説新人賞を受賞し、翌年『跡を消す 特殊清掃専門会社デッドモーニング』でデビュー。2019年刊行の『シークレット・ペイン 夜去医療刑務所・南病舎』は第22回大藪春彦賞の候補となる。現在も看護師としての勤務を続けながら、執筆を行っている。

『藍色時刻の君たちは』のあらすじは以下。

2010年10月。宮城県の港町に暮らす高校2年生の小羽(こはね)は、統合失調症を患う母を抱え、介護と家事に忙殺されていた。彼女の鬱屈した感情は、同級生である、双極性障害の祖母を介護する航平と、アルコール依存症の母と幼い弟の面倒を見る凜子にしか理解されない。3人は周囲の介護についての無理解に苦しめられ、誰にも助けを求められない孤立した日常を送っていた。

しかし、町にある親族の家に身を寄せていた青葉という女性が、小羽たちの孤独に理解を示す。優しく寄り添い続ける青葉との交流で、3人が前向きな日常を過ごせるようになっていった矢先、2011年3月の震災によって全てが一変してしまう。

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488028985

 選考委員の朝井まかて、恩田陸、貴志祐介、筒井康隆、夢枕獏による選考会が10月20日に、東京會館で行われた。

 「現実が一番辛く恐ろしいということを教えてくれて、かつそれにとどまらず、その先にある希望というものをきちんと描いている」と評価された。

 正賞として記念品(名入り万年筆)と副賞100万円が贈られる。本賞の贈賞式および祝賀会は11月22日に、いずれも東京會舘で開催される。

 なお、選評は『小説 野性時代 特別編集 2023年冬号』に掲載予定。