都内千代田区にある「山の上ホテル」が、建物の老朽化により来年2月13日から全館で休業する。

 同社が23日に公式ウェブサイトで発表した。休館の期間については「当面の間」としている。米出身の建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計により、明治大学本部の隣接地に「佐藤新興生活館」として1937年に竣工。西洋の生活様式やマナーを啓蒙する施設として使われた後、54年にホテルとして開業した。JR御茶ノ水駅近くに立地する日本を代表するアール・デコ建築である。

 出版社の多い神田・神保町が近いこともあり、様々な作家が〝カンヅメ〟で執筆を行ったことで有名。川端康成、三島由紀夫、池波正太郎、伊集院静らの作家が定宿としていた。

 檀一雄の代表作『火宅の人』は、自身が舞台女優・入江杏子と愛人関係になり山の上ホテルで同棲、入江との生活と破局したことなどの実経験をもとに描いている。2012年に発表された、柚木麻子の小説『私にふさわしいホテル』では、本ホテルにおける作家の「カンヅメ」に憧れ、自腹で宿泊する駆け出しの女性作家が主人公が描かれているなど、まさに文芸と最も関係の深い、歴史ある宿泊施設と言っていいだろう。

 三科徹代表取締役社長は、公式HP上で「皆様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、何とぞご理解を賜りますよう心よりお願い申し上げます」とコメントしている。

 筆者も一度だけ、外観を眺めて「ここがあの……」と心の中で呟いた思い出がある。休業後のことはこれから検討されるということで、どうにかなんらかの形でもう一度復活してくれるよう期待したい。