今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2023年11月号

・「第55回新潮新人賞」が発表。受賞作は伊良刹那「海を覗く」と、赤松りかこ「シャーマンと爆弾男」の二作。伊良は17歳で、史上最年少受賞となる。

・創作では、柳美里の戯曲「JR常磐線上り列車/マスク」、円城塔「実朝の首」、小山田浩子「ミッキーダンス」を掲載。

・「第22回小林秀雄賞」発表。受賞作は、平野啓一郎『三島由紀夫論』。

・「第31回萩原朔太郎賞」発表。受賞作は、杉本真維子『皆神山』。

・島本理生による新連載「触(ふ)れるポートフォリオ」がスタート。著者初のノンフィクション第一回目。

・個人的に注目したいのは、宮﨑裕助による論考「郵便的訂正可能性についてーー東浩紀の『存在論的、郵便的』と『訂正可能性の哲学』のあいだ」。9月に発売された『訂正可能性の哲学』(ゲンロン叢書)が話題のゲンロン創設者であり、思想家の東浩紀。最新作からデビュー作を逆照射し、一貫する思考を抉り出す。

文學界 2023年11月号

・高瀬隼子×市川沙央による対談「小説家になるために必要なもの/差し出したもの」が掲載。「芥川賞」はどんな賞? 「それはご自身の話ですか」にどう答える? 経験と創作、当事者性の問題に迫る初対談。
 
・【創作】では、長嶋有「シーケンシャル」、杉本裕考「ジェイミー」、奥野紗世子「享年十九」、小林エリカ「風船爆弾フォリーズ」が掲載。

・折節に耳にした言葉から坂東玉三郎の人と芸の真髄に迫る、三十年の交友を持つ真山仁の新連載「秘すれば花――玉三郎の言葉」、気鋭の写真家・金川晋吾による新連載「でもだからこそ日誌」がそれぞれスタート。

・吉本ばななの特別インタビュー「思想だけが人と人を繋ぐ――「小説家としての生き方」を語る」。

群像 2023年11月号

・高橋源一郎の新連載「オオカミの」がスタート。アリス、ハック・フィン、ピーター・パン……、大人になるためにヒトは何をチョウセイするのだろう。 エピソード0「オオカミの」からこぼれ落ちたいくつもの「の」が、新たな小説の地平を拓く。

・【刊行記念】として、金原ひとみ『ハジケテマザレ』では、島口大樹による書評「「普通」から「普通」へと移ろう」と金原自身による「本の名刺」。中村文則『列』では、蜂飼耳による書評「その列はいったい何の列なのか」、中村自身の「本の名刺」と中条省平が聞き手を務める「不寛容な時代の欲望」。古川日出男『の、すべて』では、古川自身のインタビュー(聞き手:小澤英実)「デッドエンドな未来の出口を探す」と波戸岡景太による批評「文学(と政治)のためのMission:Impossible 古川日出男『の、すべて』を読む」。

・工藤庸子「文学ノート・大江健三郎 II 沸騰的なような一九七〇年代 大江健三郎/蓮實重彦」が最終回。日本の戦後民主主義は、日本語の「政治的理性」は、女性の問題を置き去りにした。文学(研究)もまた?  言語の「政治的理性」の変革を、わたしたちは希求しなければならない――。渾身の「文学ノート」第II部完結。

・羽田圭介による連載「タブー・トラック」、毬矢まりえ×森山恵「レディ・ムラサキのティーパーティー 姉妹訳 ウェイリー源氏物語」、鷲田清一「所有について」がそれぞれ最終回を迎える。

すばる 2023年11月号

・第47回すばる文学賞受賞作は、大田ステファニー歓人「みどりいせき」。

・吉見俊哉による新連載「続・東京裏返し 都心南部編――川筋と軍都をたどる社会学的街歩き」がスタート。

・片岡大右による講演「「anarchic romanticism of youth」のあとで――小山田圭吾という芸術家の「炎上」をめぐる考察」。

・奥泉光×いとうせいこうによる文芸漫談は「ウィリアム・フォークナー『八月の光』を読む」。

・第三十八回詩歌文学館賞贈賞式記念講演を掲載。高橋睦郎「老いること 書きつづけること――later-life crisisを超えて」。

文藝 2023年冬季号

・第60回文藝賞+短編部門受賞作が発表。文藝賞受賞作は、小泉綾子「無敵の犬の夜」。優秀作は、佐佐木陸「解答者は走ってください」と、図野象「おわりのそこみえ」。【短篇部門】受賞作は、西野冬器「子宮の夢」、優秀作は才谷景「海を吸う」。

・【創刊90周年+第60回文藝賞発表記念企画】として、山田詠美×宇佐見りんの特別対談「人間のややこしい部分をこそ、言葉に」を掲載。初対談となる二人は何を語るのか。

・【第60回文藝賞発表記念企画 特集 短篇を書く技術】として、小山田浩子×津村記久子による対談「書く衝動をためらわない」、エッセイ「書くための3作」として、柴崎友香「書くことで存在する」、松田青子「読めば読むほどいい」、青山七恵「治らないうちに」、山崎ナオコーラ「なにが短篇小説だ」、町屋良平「短編小説はなにより自由だが、小説家はその自由こそが怖ろしい」、大前粟生「橋と摩天楼と発火」、倉本さおりによる論考「要約できない物語たち――短篇小説の現況をめぐって」を一挙。

・【創作】は、姫野カオルコ「はい、子供は純真で無邪気です」。ほか、【短篇】池澤夏樹「カフェ・エンゲルベッケンでハムザ・フェラダーが語ったこと」、滝口悠生「ロッテの高沢」、金子薫「独白する愛の犠牲獣」が掲載。

・皆川博子による新連載「ジンタルス RED AMBER 風配図II」がスタート。

以上、2023年10月発売の5誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。