哲学者で文芸評論家の柄谷行人が12月9日、米国バーグルエン研究所(カリフォルニア州ロサンゼルス)によるバーグルエン賞審査委員会から2022年『バーグルエン哲学・文化賞』受賞者に選出された。

同賞は、慈善家のニコラス・バーグルエンが2016年に創設した賞で急速に変化していく世界のなかでその思想が人間の自己理解の形成と進歩に大きく貢献した思想家に毎年授与されており、昨年は動物の権利、効果的な利他主義、世界的な貧困撲滅のための倫理的枠組みを提唱した功利主義哲学者のピーター・シンガーが受賞している。今回、柄谷はアジア人初の受賞者。

同賞審査委員会は「柄谷氏は現代哲学、哲学史、政治思想に対する極めて独創的な貢献をした。混迷するグローバル資本主義と民主主義国家の危機、めったに自己批判が伴うことのないナショナリズムの復活という今の時代において、柄谷氏の作品は特に重要である」と評価。

バーグルエン賞審査委員長のアントニオ・ダマシオは「柄谷行人氏は、現代における最も注目すべき哲学者の一人です。彼は互酬性と公平性という概念が思想をつなぐ鍵として大きな位置を占める見事な思想体系において、民主主義、ナショナリズム、資本主義の本質を深く掘り下げる、哲学の新しい概念を生み出しました。柄谷氏の先駆的な業績と、彼が社会、政治、文化、経済の大規模な変化によって急速に変わりゆく世界のなかで、私たちが方向性と知恵を見出し、自己理解を深めることに貢献してくれたことを称え、それを広く知らしめることを喜ばしく思います」とコメント。

柄谷は1941年、兵庫県尼崎市生まれ。東京大学経済学部を卒業後、同大学院の英文学修士課程を修了。以降、東京の法政大学で教鞭を執りながら文芸評論家として活躍し、1969年には夏目漱石を論じた評論で群像新人賞を受賞。1990年から2004年まで、米国コロンビア大学で比較文学の客員教授として定期的に教鞭を執り、近畿大学教授、カリフォルニア大学ロスアンジェルス校教授も歴任した。

受賞式は、2023年春に東京で開催予定。賞金は100万米ドル(約1億3600万円)。