今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。そして、文學界とすばるには破滅派ファン要チェック項目が追記されている。

新潮 2022年7月号

・「背高泡立草」で芥川賞を受賞した古川真人による初長編「ギフトライフ」が掲載。人生がポイント化され、政府=企業が安楽死と生体贈与を推進する世界で、「命」と「悪」を根源的に問う渾身の作品。また、山田詠美の折り目正しき殺人者が伝える、自らの哲学とその生涯を描いた「たたみ、たたまれ」が掲載。

・「ブロッコリー・レボリューション」で『第35回三島由紀夫賞』を受賞した岡田利規による受賞記念エッセイ「小説とわたしと演劇の三角関係の歴史」が掲載。選考委員による選評も。

・坂本龍一による新連載「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」がスタート。第1回は「ガンと生きる」。2014年に中咽頭癌であることを公表し、以来闘病を続ける彼が何を語るのか。

文學界 2022年7月号

・【特集】「西村賢太 私小説になった男」として、3月に亡くなった西村賢太を対談、回想、手記、名言集で追悼する。田中慎弥と阿部公彦による対談「私小説じゃなきゃダメなんだ」や、「朝日書林」店主・荒川義雄氏による回想「西村君との三十有余年」、葛山久子による手記「親愛なる西村さんへ」が掲載される。

・創作では、先月「旅のない」で川端康成文学賞を受賞した上田岳弘による「ICO」を掲載。あわせて杉本裕孝「グッバイ、メルティ」、藤原無雨「五十六億七千万重奏」も。

・4月に『君たちはしかし再び来い』(文藝春秋)を上梓した山下澄人と、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授の伊藤亜紗による対談「病気の身体が見せる世界」はポスト・コロナ時代において示唆的なものとなりそう。

・なお、今月号にはいよいよ20日に発売される佐川恭一と斧田小夜の新刊について、破滅派の広告が出稿されているのであわせて要チェックである。

群像 2022年7月号

・創作では、昨年『ここはとても速い川』(講談社)で野間文芸新人賞を受賞した井戸川射子による「この世の喜びよ」が掲載。ほか、精神科医で詩人である尾久守侑の「天気予報士エミリ」も。

・批評総特集は『「論」の遠近法2022』として、様々な批評文が集結。宇野常寛の新連載「庭の話」ほか、柄谷行人によるエッセイ「社会科学から社会化学へ」をはじめ、ベンジャミン・クリッツァー『「感情」と「理性」:けっきょくどちらが大切なのか?』など読みどころ満載。大澤聡のインタビュー(聞き手:宮田文久)「国家と批評と生活と」も併せて掲載。

・多和田葉子の連載小説「太陽諸島」が最終回を迎える。

・【追悼】菊地信義 中山俊宏として、装幀の第一人者である菊地氏、そして国際政治学者の中山氏、今年3月と5月に相次いで亡くなった二人の死を悼んで水戸部功、池内恵が追悼文を寄せた。

すばる 2022年7月号

・井上ひさしの未発表戯曲『うま──馬に乗ってこの世の外へ──』が掲載。今村忠純が「山形県は置賜盆地の西の端」で解説する。さらに、井上ユリによるエッセイ「『うま』発見から公開まで」も。

・谷崎由依による新連載「百日と無限の夜」がスタート。西加奈子の小説「あらわ」も掲載される。

・ドナルド・キーン生誕百年として、現在、神奈川近代文学館で特別展「生誕100年 ドナルド・キーン展―日本文化へのひとすじの道」も開催されているドナルド・キーンの小特集も。ドナルド・キーン「友への手紙」(解説/キーン誠己)ほか、野崎歓によるロングエッセイ「友情の人ドナルド・キーン」が掲載。

・高羽彩による新連載コラム「ちょっと待ってください」がスタート。恩田陸の「鈍色幻視行」が最終回を迎える。

・追悼:菊地信義として、椎名誠による「しあわせな紙とペンのサーカス」が寄せられる。

・なお、今月号には佐川恭一『シン・サークルクラッシャー麻紀』斧田小夜『ギークに銃はいらない』の広告が出稿されているので確認されたい。

以上、2022年6月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。