今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2023年1月号

・円城塔による新連作、武将であり文人の戦国AIが嘆く「幽斎闕疑抄」、小山田浩子による新連作「赤い猫」が掲載。

・谷川俊太郎の詩「言葉の方舟」他五篇が掲載。

・坂口安吾の“決定版”全集にも掲載されなかった幻の作品「盗まれた一萬円」。笑劇はなぜ埋もれたのか? 大原祐治による解説も。

・大塚ひかりによる新連載「嫉妬と階級の『源氏物語』」がスタート。人間の生の根源に迫る四代七十六年の「大河ドラマ」を紡いだ原動力――新・古典評論。

文學界 2023年1月号

・【特集】「無駄を生きる」として、日常の中で切り捨てられがちな「無駄」について考える。無駄マシーンを作る動画をアップし続け、SNSを中心に人気の藤原麻里菜を取材した鳥澤光によるルポ「藤原麻里菜と無駄マシーンを作る」、吉村萬壱×藤原麻里菜による対談「追いかけると、逃げていく『無駄』」、柿内正午によるエッセイ「無駄な読書」など一挙掲載。

・砂川文次による新連載「越境」がスタート。北海道にロシアが攻め入った「事案」から10年。物資輸送中の自衛隊が急襲される。渾身の戦争小説。

・山家望による「紙の山羊」が掲載。行政書士の相川は、謎の人物に教育を施すという奇妙な仕事を依頼される。新鋭の意欲作。

・奈倉有里による新連載「ロシア文学の教室」がスタート。

・個人的に注目したいのは、現在放送中のカンテレによるテレビドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』も手掛けるテレビプロデューサーの佐野亜裕美×ライターの西森路代による対談「生きづらさを抱えている人たちに」。昨年放送された話題ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』など数多くのヒット作を手掛けてきた佐野と西森が現在の″恋愛″について語る。

群像 2023年1月号

・巻頭は、先日『あなたに安全な人』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した木村紅美による「夜のだれかの岸辺」一挙掲載。さらに井戸川射子「共に明るい」、沼田真佑による木山シリーズ最新作「カタリナ」、そしてBFC4で準優勝した草野理恵子による短編「島と君と犬そして兄」も。

・【小特集・山田詠美】自伝小説『私のことだま漂流記』の刊行にあわせ、石戸諭が聞き手となった山田詠美インタビュー「「小説家」という異形の生き物」と、清水良典「「ふるさと」からの旅路」、長瀬海「愛に生きて行く小説家」の書評二本を掲載。

・【小特集・多和田葉子】では、三部作完結篇『太陽諸島』刊行にあわせ、小澤英実が聞き手の多和田葉子インタビュー「歴史の詰まった海、喚起される記憶」と、松永美穂の書評「国境なき船旅、幻の故郷と饒舌な旅人たち」。

・高原到による短期集中新連載「二つの戦争のはざまで――『同志少女よ、敵を撃て』とウクライナ戦争」がスタート。戦争の本質にある「憎しみの連鎖」が日本で断ち切られたのはなぜか。ベストセラー小説を導きの糸にして、日本の戦後を問う。

すばる 2023年1月号

・青山七恵による新連載「記念日」がスタート。

・井上荒野による短編「みみず」が掲載。

・【特集】「2023年の幸福論」として、若松英輔による特別エッセイ「幸福の原点」、小説では山田詠美「MISS YOU(ミス ユー)」、小山田浩子「ものごころごろ」、高瀬隼子「末永い幸せ」、そのほか論考、亀山郁夫「冷たくあれ、熱くあれ」、清水晶子「許容されない幸福へと跳躍するあなたと共に拳を握って」、エッセイとして岸政彦「生きている、としかいえない」、永井玲衣「穴だらけの幸福」など一挙掲載。

・小津夜景による新連載コラム「空耳放浪記」がスタート。

・田中慎弥の「流れる島と海の怪物(21)」が最終回を迎える。

以上、2023年1月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。