(第19話) それから1週間も経たず、もう1作仕上げてしまった。 依本は書き終わると、すぐさま内田に連絡を入れ、メールに添付して送った。あまりの快調さに自分自身で驚いていた…
内田がやってきて、依本は原稿を渡す。 「ほう、もう完成したんですか。助かります」 表情は変わらないが、一応お褒めの言葉は引き出せた。とりあえず目標の一つは達成したことになる。根を…
(第17話) まだ依頼があったころ、編集者に「がんばって書いてますか?」とよく言われた。依頼主にケチをつけるなんてできないので受け流していたものの、実に違和感のある言葉だなぁと依…
(第16話) 「大葉」で、久しぶりに女神と会った。 もっとも会ったからといって話をするわけでもない。知り合いでもなんでもないのだ。単に見かけた、という程度だ。 その日…
(第15話) 1冊分を書きあげた依本は内田に送った。 デビュー時には、直接手渡すか、書留で送るかだった。それが今や、メールに添付するだけとくる。レトロな感覚を持つ人間として…
(第14話) 駅で内田と別れた依本はぜんぜん呑み足りなかったので、「大葉」の暖簾をくぐった。 いつもの壁際がうまい具合に空いていて、落ち着く場所を確保できたことに満足する。…
(第13話) 3日後の夕方、内田が進捗状況を確認しに来た。 すでに3分の2まで書き上げている依本は、内心の得意気を隠しながら、プリントアウトした原稿を渡した。 しかし…
(第12話) 謎の人物は伝説も生まれやすい。詠野Zにもいくつか噂があったが、その一つを抜き出すと、このようなすさまじいものだった。 それは詠野Zが、まるでタイピストが原稿を…
(第11話) 詠野説人。こう書いて「えいのぜっと」と読む。謎の作家で、プライベートな部分はほとんど知られていない。昭和30年代の生まれ、東京都出身、血液型A型、男。公式な情報とし…
(第10話) 伸びをした拍子に、店をぐるりと見回す。拘らないようにしているのだが、つい、あの女がいないかと探ってしまう。 女はいない。依本は落胆する。一目見れば、明日からま…