語り手による一人称という時点で、語り手自身も信用できないという点は、推理小説の定番なのでそれを念頭に置いて考える。
まず本作で起きている四つの事件は、それぞれ別物であることを念頭に置かなければならない。
一つ目の猫の惨殺。二つ目の英樹の死、三つ目のミチルの死、四つ目の母の死である。
これは書かれていない部分についての予測になるが、筆者はこれは芳雄と鈴木とのゲームの取り決めがあったのではないかと思っている。どちらから持ちかけたのかも予測だが、恐らく鈴木から芳雄ではないかと。
「実は自分は全知全能の神だが、指定した期日までに本当かどうか当ててみろ。俺を信じたら俺の勝ち、信じられなかったらお前の勝ち」とかそんな感じの。
ここでの期間は鈴木と芳雄との会話を見る限りで26日くらいまでではないかと思う。タルムードの兄バハムードが敵の幹部かどうかが再来週には分かると言った箇所である。たしかこの会話は7月12日にされたので、二週間後が26日、本編終了が25日である。なお、25日にはもう鈴木と会話はできなくなると芳雄が述懐しているから、ゲームの期限が暗黙に設定されていると推測した。
ミチルの死の直前までは鈴木が神であるかどうかは半信半疑だったと思われる。猫殺しの犯人の予測についての煮えきらなさ、戦隊の六人目のメンバーも予想できていないなどである。そして重要な点がある。ミチルへの天誅を決めたのは、ミチルが死ぬ直前であるということである。それまでは天誅の向き先は猫殺しの真犯人だったのだ。もし誰かが既に大時計に仕掛けを施していた場合、この鈴木と芳雄とのやり取りがなかったか、あるいは内容次第では、ミチルの死は猫殺しに紐付けられていたということになる。
筆者の予測では、犯人役、被害者役を鈴木が適当に役割を振ったのではないかと思う。ここから考えられることは、猫の惨殺であろうと、英樹殺害の犯人であろうと綿密に計画立てて犯人役被害者役を設定したのではなく、たまたま大時計の針の落下した先に立っていて直撃した人をその時審議が起きている犯人という風に後から決めたのではないか、と思う。実際にミチルへの疑いは、ミチルの死の後に行われている。
それが何の犯行であったかすらどうでも良かったということだ。たまたま直前に、天誅の対象が秋屋から英樹殺害の犯人に変更したという話であり対象の変更がなければ猫殺しの犯人としてミチルは扱われていただろう。(つまりここで鈴木は探偵団、あるいはこの学校の中の誰かを猫殺しの犯人としても候補に入れていたということでもある)
秀樹殺害の犯人への天誅として、針が仮に孝志に直撃していた場合、何かしらそれまで読者に示されていなかった事実を開示して、孝志を主犯とするような推理をしていたのでは無いかという気がする。ただしこの場合、孝志を主犯として推理していってどこかで躓いたら、芳雄は鈴木はやはり神ではなかったと結論づけていたのかも知れないので、そういう意味で、ミチルの上に落ちたという点で鈴木にとっては「神様ゲーム」上で有利に働いた。
尚、時計の針の落下地点に呼びかけているのは孝志であり、彼が呼んだのは聡美である。ミチルに直撃したのは非常に偶発性が高く、それが必然であるとするなら鈴木は正真正銘の神ということになる。またその場合、最後の母の死ですら干渉可能になるが、その予測の場合何故期間限定の縛りがあるのかが不明になる。
つまり一つ一つの事件について直接のつながりは何もなく、最後の母の死ですら勝手に共犯者への天誅だと思っていたのだ。筆者はあれは事故だと思っている。実際に母とミチルに繋がりがあったのかも知れない、あるいはそれは父との密会だったかも知れない。だがそれはこれらの英樹の事件と関係があったかどうかは、芳雄による牽強付会ではないかと思われる。
このゲームは結局鈴木の勝利だっただろう。それは芳雄が鈴木を期間内に神だと信じ切ったという意味において。
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