不相応な贈り物

名探偵破滅派「元彼の遺言状」応募作品

諏訪真

エセー

1,195文字

今回は贈与という点からのみ考察します。
第2回名探偵破滅派『元彼の遺言状』

贈与(ポトラッチ)に関するものがテーマなのか、と今回は贈り物にフォーカスして考える。贈り物という観点からこの話を見ると象徴的なのが、冒頭の婚約指輪の話がある。給与三ヶ月分の婚約指輪だと安いと切り捨てるところから始まる。すこしはなしはそれるが、ここ数年、クリスマスの時期になると話題になるのが4℃のフリマサイトでの叩き売りである。物を送るという行為は、相当センシティブな行為である。それが命に関わるレベルになるとどうなるだろうか。

栄治の兄富治は、実は生まれつき白血球が作れない難病だったが、その救済のために作られたのが栄治である。富治に骨髄移植をするためにHLA型が適合する受精卵を選別した上で生まれてきたのが栄治である。栄治によって富治は劇的に回復したことで、一生引け目を感じることになる。

この前提を踏まえた上で、安直に想像するなら栄治が兄に負わせてしまった引け目を精算させようとしたからかと一瞬思ったが根拠は足りない。その他、村山弁護士の死に際の言葉「事務所を貰ってくれ」というものも、今際の際の言葉として何か不自然なものを感じさせた。ポトラックの話に沿うなら、ここで村山弁護士は剣持に対して何かしら大きな感情を抱いていたことになる。それが単純な善意の範囲で収まるようなものには見えない。

 

その他、富治と栄治はほぼ声が同じなど。途中から森川拓未が犯人ではないか説が上がる。この場合村山事務所から遺言状を盗んだ人物と村山を殺した人物も同一か? 遺言状とは別に入っていたちょっとした書類、とは? 金庫は5桁の暗証番号が2つ必要。村山の今際の際の言葉は、恐らく弁護士バッジについて語ろうとしているのでは。銀治は金治と定之の賛同は得た。平井からは賛同を得ていない。

栄治は最終的に資産を誰に送ることを考えていたのか? 銀治が言うとおりだと始めから国庫へ収めることを想定しているようにも見える。

 

科学的な知見から一点ツッコミを入れておくと、まず遺伝子を書き換える薬というのは、科学的にありえない。生物の教科書を読めば理由がはっきりと書いてあるが、セントラルドグマでググれば多分そのあたりの理由が解説されているので詳しくは割愛する。とりあえず本作ではスターウォーズでの宇宙空間での爆発音のように一般的なものではなく「私の宇宙ではあり得る」ものとして解釈する。

 

栄治の犯人とその手法については想像がまとまらないので、遺言状の意図だけ推理すると、きっかけは栄治の生まれに由来するかと思われる。兄の命を救うべく望まれて生まれたが、その望みを受け入れきれずにやがて病んでしまった。マッスルマスターゼットの人体実験に自ら名乗り出たのではないかと思っている。もし副作用で死んでしまったら、拓未が犯人として。そうではなく無事効能があったとしたらそのままインフルエンザによる病死で財産は国庫へ。

2021年4月19日公開

© 2021 諏訪真

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