絶滅者 22

絶滅者 ー「わたし」と「ワタシ」ー(第22話)

hongoumasato

エセー

3,298文字

かつて、瀕死の父を背負いながら助けを求めた母を邪険に扱った警察官。

「ワタシ」の次の標的は、この警察官に決まった。

再生能力を試すため、あえて警察官に発砲させ、被弾させる「ワタシ」。

再生能力は問題なかったが、予想外の事態が勃発し、「ワタシ」は危機を迎え・・・

その巡査は、一人で交番にいた。

 夜の闇に包まれる一帯。

 交番の明かりだけが浮かび上がる。

 一人の公僕が殉職するのに、上等な舞台。

 ワタシは交番に入った。

 姿も日本刀も隠さず。

 背に日本刀を背負った十二才の少女の訪問。

 その巡査も、これまで破壊した者達と同じ反応を見せた。

 困惑・動揺・恐怖。

 ただ、腰の特殊警棒に手が伸びている。

いつでも抜ける状態だ。

「警察学校を出たら、多くの警官が機動隊に放り込まれるそうね。その教育期間も終わって、今はここで酔っ払いやチンピラを相手にしてるの?」

「お、お前……! 重参として指名手配になってる……! 馬鹿な! 何をしに来た? おい、その背中の日本刀は……本物なのか?」

「重参――重要参考人? 銀行のテープには映っていた。駅では大勢の目撃者がいた。それでもまだ信じられないの? 全部ワタシがやったのよ。参考どころじゃないない。ワタシは、答え」

 ワタシが自首をしに来たわけではない――動揺と混乱の渦中にいる警官でも、それぐらいは分かっているだろう。

「お、お前みたなガキが……信じられん」

 ワタシは一瞬消えてみせた後に、すぐ元の位置に姿を現した。

警官が握り締めていた特殊警棒を手に持って。

さらにその警棒を、容易くへし折ってみせる。

「なっ! 何を……何をしたんだ……! お前は何者……?」

 巡査の声が裏返る。

「これで信じてもらえた? 警棒が無くてもいいじゃない。あなたの腰には、拳銃がある。ワタシは刀だけ。しかも防刀チョッキを着てるんでしょ? さらにアドバンテージをあげる。ワタシはさっきみたいに消えたりしない。しかもあなたに、リボルバー六発、全部撃たせてあげる。どう? これなら、戦う気になるでしょ?」

「なぜだ! なぜ俺をっ……? その……殺そうとする?」

「覚えてないの? 共産主義国から来た反日のお偉いさんを警護してる時に、あなたに助けを求めた女性がいた。重病人を抱えてね。それはワタシの母親だった」

 警官の顔に衝撃が広がる。

 思い出したようだ。

「聞きたいことがあるの。アンタ達警察官は、反共の砦なんでしょう? なのに、何で共産主義国の幹部を護衛するの? 助けを乞う自国の弱者を無視してまで。不景気なのに、三兆三千億円もODAという形で金を巻き上げられて、それでこの国に照準を合わせた長距離ミサイルを配備している。この事について、あなたはどう思う?」

 巡査から答えは無かった。

 ただ、目が泳ぐだけ。

 ガッカリ。

 相手が警察官だから、少しは有意義なディベートを楽しめそうだと期待したワタシが間抜け。

「……分かった。じゃあ、戦おう。条件を一つ。応援を呼べば、戦う意志無しと判断して、あなたを破壊する。それに応援は呼ばない方がいい。二階級突進者が続出するだけだから」

 巡査の目に、獰猛な光が宿った。

 腹を括ったようだ。

 ワタシが本気だと、悟ってくれたらしい。

 だが、最初の一撃を中々放てない。

 キッカケを与えるため、ワタシは一歩巡査に踏み出した。

 もう巡査は躊躇わなかった。

 自分が置かれた状況を認識できたようだ。

 「殺らなければ、殺られる」

 機動隊での訓練は、無駄では無かったらしい。

 それは射撃で実証された。

 リボルバーから放たれた六発全弾が、ワタシの胸部中央付近を貫いていった。

 肉体再生能力を確認したかった。

 だから撃たせた。

 結果は満足できるものだった。

 二発がワタシの心臓を貫通し、一発が縁を抉りとった。

 その傷は瞬時に塞がった。

 何事もなかったかのように動き続ける心臓。

 しかし、誤算があった。

 痛み。

 想像を絶する激痛。

 気が遠くなりかける。

 体が「くの字」に折り曲がる。

 巡査は冷静だった。

 この隙に応援を呼んでいる。

 事があまりに理解不能過ぎて、巡査の頭は真っ白。

 ゆえに、体が覚えたことを無意識に実践している。

 何とか動ける程度に、痛みが治まってきた。

 巡査は、無線で応援を呼び終えていた。

 手錠を手に、慎重にワタシに近付いてくる。

 激痛で能力が格段に低下している。

 だが「人間如き」に、ワタシの動きは見切れない。

 ワタシは日本刀を一閃させた。

 巡査を真っ二つにするために。

 しかし――しかし、失敗した。

 日本刀は巡査の左肩から入ったものの、心臓に達する直前で止まった。

 防刀チョッキはやすやすと切り裂いた。

 だが、骨と筋肉を一刀両断できなかった。

 痛みのせいで、力が急激に落ちているようだ。

「うう……ぐううぅっ……」

 「信じられない」――巡査の顔にそう書いてあった。

 ワタシと巡査は、その姿勢のまま対峙した。

 血走った警官の目。

 激痛で瞼が痙攣しているワタシの目。

 二つの眼が、絡まりあう。

「い、いいか。お前がどれ程の化け物だろう、が、な……い、いくら親の復讐だろうが……さ、殺人……人を殺すというのは、人間として一線を、こ、超えてしまう、こ、ことなん、だ。に、人間か、ケダモノかの、い、一線を……」

 息も絶え絶えに、しかし巡査ははっきりとワタシに告げた。

「ワタシがその線を越えたんじゃない。アンタ達が、ワタシにその線を跨がせた……」

 ハッとする巡査。

 死に際の彼には、真実が見えたのかもしれない。

 ワタシは力を振り絞り、日本刀を深く斬り込ませた。

 

 スーダンで、政府対反政府の内戦が勃発。

 宗教上の対立が原因だった。

 何人もの罪なき人々が、ボロ切れのように殺された。

 しかし和平が実現。

 だが、理由は人命尊重にあらず。

 石油だ。

 政府が石油輸出の利益を反政府グループにも供与することで、和平が叶った。

 すると別の反政府グループが内戦を起こした。

 自分達も石油輸出の甘い汁を吸いたいと。

 また、無辜の人々が無慈悲に殺され続けている。

 

 インドネシア・スマトラ島で大地震が発生。

 諸外国から、人命救助のため軍隊や救援組織が派遣された。

 最も被害が大きかったアチェ州。

 同州にも当然、救助チームが派遣された。

 アチェ州では、独立を目指す武装組織・GAMが政府相手に扮装を繰り広げていた。

 GAMは地震後、「攻撃停止」を宣言。

 だが政府は、GAMが地震後も政府軍兵士を殺し、救援物資を略奪していると主張。

 諸外国の救援団に、一刻も早い撤退を強く要請した。

 政府は、地震で手足を失った人間の治療よりも、反政府軍抹殺を優先させた。

 

 日本も多くの恥ずべき歴史を持っている。

 帰宅途中の女子中学生が「北」に拉致された時、この国は軍隊ではなく、米を送った。

 自国民二人が「北」に拉致された時、レバノン政府は断固とした姿勢で北に宣戦布告。

「北」は二人を、さっさとレバノンに返した。

 レバノンは発展途上国で日本は先進国と言われている。

 一体何が「先」に進んでいるのか?

 

モロッコでアメリカ人母子が誘拐された。

時のアメリカ大統領・ルーズベルトは艦隊を派遣。

見事に奪還してみせた。

日本で、結婚間近の恋人達が北に拉致された。

男性の母親はショックで倒れた。

後遺症として、言語障害と身体麻痺が残った。

寝たきりの生活を余儀なくされた。

介護は夫が全て背負った。

母親は寝たきりの生活の中で、男性の帰りを泣きながら待った。

しかし想い叶わず、息子の顔を見られないまま、黄泉へと旅立った。

日本政府はその間、相変わらず米と金を送り続けた。

人さらいの人殺し国家に。

国をあげて、人さらいを応援している。

 

かつてクラウゼビッツは、「戦争は外交の延長。ゆえに話し合いも可能」と述べた。

戦争で虐殺される無辜の民は、和平会談セッティングのための布石らしい。

人間の命など、その程度のものなのか。

 

もう一度、自問。

人間の命とヘリウムは、どちらが重いのだろう?

 

ワタシは絶滅者らしい。

だが人類を絶滅させる気は、毛頭無い。

罪無き人々を殺す理由・権利がどこにある?

では、大罪を犯しているのに、のうのうと生き永らえている連中は?

答えはすでに出ている。

ワタシは決断した。

 

ワタシのこの力は、今は家族の救出のために使う。

では家族を取り戻せたら……?

生きる価値も権利も無い連中が、家族を地獄に叩き落した。

同じ境遇にいる人間は世界にごまんといる。

他人事では無い。

絶滅させる程、人類を破壊しない。

けれど、予想以上に多くの人間を破壊することになるだろう。

2019年2月18日公開

作品集『絶滅者 ー「わたし」と「ワタシ」ー』第22話 (全46話)

© 2019 hongoumasato

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