バス停

小林TKG

小説

2,536文字

前回の合評会の切れてない蛍光灯の時、こういうのも考えていたんですが、いかんせん話になる以前の感じで。で、その合評会後もしばらく考えていたんですが、もういいやってなって、で、そしたら足りない部分を埋めるパテはこれでいいんじゃないかってなりました。んで、せっかく思いついたんで簡単にでも書きます。せっかくだし。ただ、そのパテの部分を最近観てない、観返してないんで、若干、というかかなり曖昧です。

田舎のあぜ道を歩いていると、あ、田舎にはいまだにそういう道がある。あぜ道。田んぼの中の道はあぜ道とは言えないと思う。それは田んぼ作業用通路だ。でも実際は田んぼ道っていうらしい。っていうか、それについて調べたらあぜ道って言うのは田んぼと田んぼの間にある道で、田んぼ道って言うのは田んぼの中の道らしい。じゃあ、田んぼと田んぼに挟まれた道も、言って見たら田んぼの中の道にならないだろうか。リバーシ的に田んぼ道にならないか?あと、田舎にある道は田舎道というらしい。

 

まあ、その辺の事はどうでもいい。

 

田舎のあぜ道を歩いてると、前方にちょっとした小屋のようなものがありました。

「バス停?」

バス停の様でした。その小屋の前にバス停のあれが立っていたからです。時刻表とか貼ってるあれ。印。バス停。

 

「こんなところにバスが走ってるんだ」

まあでも、自分はバスには乗らないからいいかと、そのまま歩いて通り過ぎようとしたとき、バス停、小屋の中をちょっと脇目で見ました。入口のすぐ上に蛍光灯が付いているのか、薄暗い中が見えました。ちょっとした座るベンチというか。まあ、そういうのがある。バス停でした。田舎のバス停です。中には誰もいませんでした。

 

それから、そのバス停を通り過ぎてから10歩か、もっとかな、歩いた時、ふと、

「見覚えのあるバス停」

と、思いました。そのバス停。何かで見たことがある。様な。気が。する。

 

一度立ち止まって、振り返りました。視界的にはさっきと、逆位置、逆サイになったバス停がありました。

 

でも、そっから見ても、脇から見てもピンときません。

 

正面から見た方がわかる気がします。しました。

 

だからバス停まで戻って、そのバス停を正面から見ました。

 

電気がついてる、蛍光灯の光ってるバス停。でも薄暗いバス停。

 

「なんか、なんだ?」

ピンときません。いまいち。

 

でも、バス停とは反対の、バス停のある側とは逆サイの道の際まで行った時にふと、

「幻の光?」

と思い当たりました。

 

幻の光。江角マキコさんが出てたそういう映画ありました。江角さんは夫の死の際の行動がいつまでも飲み込めない奥さんの役でした。

 

その江角マキコさんが出てきたバス停。

 

そのバス停。

 

黒い服の江角マキコさんが出てきたバス停。

 

そのバス停。

 

その小さい内部に恐ろしいほど深い黒を抱えたバス停の闇、その中から江角さんが、黒い服を着た江角さんが出てくるんです。

 

そのバス停。そのバス停があったんです。田舎のあぜ道の中にポツンと。

 

でも、思い出しても、それでもまだピンときません。

 

「蛍光灯が付いてるから」

映画と違って蛍光灯が付いてるんです。バス停の内部に。映画の中ではそんなの有りませんでした。真っ暗なバス停だったんです。本当に真っ暗で。

 

邪魔だな。

 

そう思って、バス停の中に入りました。かがまないといけない程低い天井、その入り口近くの天井に蛍光灯が付いていました。弱弱しい光を放つ、うっすらと点滅、明滅を繰り返す、蛍光灯。カバーも何もついてない。裸の蛍光灯。

 

それを捥ぐように取りました。

 

その瞬間、バス停の中が真暗になりました。黒。夜のような黒。目の前に人が居てもわからない程暗い。真暗なバス停。

 

外に出て、また眺めました。ああ、これだ。これだなと思いました。

 

江角さんが出てきたバス停。

 

真っ黒な服を着た江角さんが出てきたバス停。

 

ああ。

 

これだ。

 

これだな。

 

それを黙って眺めているとクラクションの音がしました。

 

バスでした。

 

そのバス停にバスが来たんです。

 

私はそのバスに乗りました。田舎のバスでした。となりのトトロの世界のバスみたいなバスでした。鼻先が出てる様なバスです。昔のバス。

 

「あ、蛍光灯」

戻してない。

 

そう思いましたが、もうその時にはバスの最後尾の横長席に座っていました。

 

窓からバス停を見下ろせる位置に座っていました。

 

そうしてそのままバス停を見下ろしていると、バス停の、そのバス停の、真暗になったバス停から、おばあさんが出てきました。

 

藍色で小花柄のモンペを着た、頭に手ぬぐいを巻いてるおばあさん。腰の曲がったおばあさん。

 

「おばあさん」

持っていた蛍光灯をおばあさんに渡そうと思いました。そしたら戻してくれないだろうかと。だから窓から出して渡そうと、

 

でも、

 

そうしませんでした。

 

おばあさんが小さな子供を抱えていたからです。

 

おばあさんは手に赤子を抱えていました。

 

死んでる子供。

 

死んでるのが一目見てわかる赤子。

 

ぐったりと首を垂らした。赤黒い顔をした。

 

じっとこちらを見ているおばあさんと目が合いました。

 

バスが発車しました。

 

おばあさんが追いかけてきました。

 

おばあさんが鬼のような顔をして追いかけてきました。

 

徐々に小さくなっていきましたが、なかなか見えなくなりません。

 

子供の頃に見た人形劇の牛方と山姥のようにおばあさんは追いかけてきました。

 

「・・・」

気が付くと、田舎の風景は夕方のようにオレンジ色に染まっていました。

 

どれくらいバスに乗っていたのか、バスがどれくらい走ったのか思い出せません。

 

後ろを見てももうおばあさんは追いかけてきていませんでした。

 

「これ」

どうしよう。手に持った蛍光灯をどうしたらいいのかと思ってみると、そこにおばあさんが持っていた死んだ子供、赤子がありました。居ました。

 

首が垂れ下がって全く向こう側を向いてる。

 

死んだ赤子。

 

 

 

 

2022年2月28日公開

© 2022 小林TKG

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