①主人公の行く末
まず初めにこの小説は非常に手の込んだキャラクター描写を用いた小説であることを考える必要がある。何よりもお金が大事であるという主人公は、表紙カバーのイラスト、作中の独白での容赦ない突っ込み、人に怒鳴られても動じない性格など、非常に隙のないキャラクター造形である。だが裏を返せばそれは美点とともに欠点も誇張されているわけで、物語の文脈ではその欠如の回復が図られるはずである。よって展開としてはお金という経済的価値に勝る別の価値観を得る必要があるが、それは元の会社に戻るか「暮らしの法律事務所」を譲り受けることであるが、おそらく両方である。
②犯人
犯人は原口朝陽である。①で示したキャラクター描写の観点から見ると、主人公は他の多数の登場人物とは別に朝陽にだけは初対面時から「愛嬌のある」という言葉を使用し好印象を抱き続ける。その後主人公とコンビまで組んで犯人探しに奔走する朝陽だが、これはミスリードである。主人公が相対する人物の中で、心の内に抱く感情が一人だけ異なる点が彼女を浮かび上がらせる。女性ではあるががっしりした体形は金庫を動かすにも支障はないであろう。
そして何よりも警察に注射痕の件を垂れ込んだのは他ならぬ朝陽である。警察を動かして状況を複雑にしようとする意図が感じられはしまいか。
彼女の体の悪い母親はマッスルマスターゼットの治験を行ったことによるものである。治験を勧めたのが栄治であるためそれが動機となる。
③森川製薬の新薬開発事業と村山殺し
朝陽はマッスルマスターゼットの販売阻止、および栄治の遺産を国庫に帰属させて森川製薬を潰すために村山を殺して金庫を持ち出した。川に放り投げたのは時間稼ぎをするためである(なぜ時間稼ぎをする必要があるのかはわからない)。
なお、暴力団を動かしたのは副社長の平井であり、それは殺人とは別に彼が会社を乗っ取ろうとしているからである。
④金庫の中身
遺言状とともに入っているのは、栄治が銀治の息子であることを証明する書類である。体外受精で使われたのは金治ではなく、銀治の精子である。
⑤シリーズ化
宝島社はこの強烈な主人公のキャラクターを受けて、シリーズ化を目論んでいる。カバー、扉の装丁、無駄に多い登場人物、題名の変更等、販売戦略は周到である。売れ行きを見て著者に次作を依頼するに違いない。
なお、もし次作が出た場合は喜び勇んで推理をすることになるだろう。
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