『クソデカ文芸時評』文庫版あとがき(カラタニ)

佐川恭一

評論

3,980文字

いまや伝説と言われているカラタニ円熟期の代表作『クソデカ文芸時評』。ヤバすぎる筋から文庫版のあとがきのみを入手したので許可なく公開する。

そもそも文芸時評というのは「時評」というぐらいであるから、一秒でも時期を過ぎればほとんど糞を拭くにも役に立たないゴミクズとなるものだが、私が酢を盗み飲みしたしかめっ面の鼠みたいな編集委員に頼まれ、脳が壊死しそうなほど絶望的につまらない小説をむせび泣きながら読み倒し、有用な情報の何ひとつ載っていない激烈偏向新聞に連載していたこの時評をぱらぱら読み返してみると、ふつうに最低六億年は楽しめそうな出来であることにメチャメチャ驚いた。これは私が毎月取り上げてクソミソに貶した各小説が実はとんでもなく射程の馬鹿広いヤバめの普遍性を持っていたから、というわけでは勿論なく、完全に私の正気を疑うレベルでエグすぎる圧倒的な読みの超絶パワーのためであり、当のドン引きするほどしょうもない発想の貧困が末期状態としか言いようのない腐り切った小説群よりも、私の非の打ち所の一切ないパーフェクトな時評を読んだ方が少なく見積もって二京倍は有意義だといわざるをえないから、六億年後、おそらくもととなるクソ小説は跡形もなく木っ端微塵に爆散消失して、私の他の追随を許さぬ異様に優れた超絶時評だけが鬼のように激しく読まれまくり、人生を百回寝て過ごせるほど猛烈な印税が子孫に半永久的に振り込まれ倒すことによって、末裔の全員が三田子のヤバすぎる息子のようになるだろう。しかし真の文化とは、金の心配など全然しなくてもいい最強無敵の状況におかれたスーパー高等遊民が、ひますぎるあまり謎に徹底した思考を何百万回も意味なく繰り返しまくった結果、思わぬところで下痢便のように突然ひり出すものなのだ。

 さて、今月の文芸誌にも一通り目を通してみたが、有史以前から今日にいたるまで一度も例がないほど低調であった。どの雑誌にも読む価値のある行がマジで全然一行もなく、時評の任期中であればあの特定の思想に肩入れするあまり根拠の一つもないデタラメを自信満々に並べ立てまくる全社員を詐欺で投獄すべき犯罪的激ヤバ新聞社の全社屋を大爆破してそれ以上はとても望めないほどクッソ遠い国外(ブラジル)に電撃逃亡していたことは間違いない。だいたい昨今のグランド芥川賞EXやスペリオル直木賞などは、受賞作が即刻全世界全言語で翻訳され最低でも五百億部は売れるというから、文芸市場はかつてよりも五千万倍めぐまれた状況にある。しかしそれはもちろん作品の質をまったく全然担保しない。最新のグランド芥川賞EX作品である相手はマジで誰でもいいからとにかく結婚したくてあらゆる婚活パーティに参加しまくったけどびっくりするほど相手にされないので異世界に転生して一日で一年分過ごせる精神と時の部屋みたいなところで婚活パーティの練習を万回繰り返して現実世界に戻ったら無双できるのか試してみたなどは、これをどのようにして受賞作に選べばいいのか首を傾げすぎて大事な血管が二、三百本ブチ切れかねないほど悪い意味で意味不明な代物である。まず主人公の男はハチャメチャに結婚したすぎて婚活パーティにエグい頻度で参加しまくる(なお、なぜ結婚したいのかの説明は皆無である)のだが、女性陣からすさまじい拒絶に遭う。最初の自己紹介を始めようとしただけで女性がブチキレてロンギヌスの槍で主人公の胸をブチ抜こうとしたり、フリータイムでチラッと目が合っただけで女性がプッツンして名刀菊一文字で胴体を切断しようとしてきたりする。主人公は一万二千四百三回目で婚活パーティをあきらめて異世界転生を試み(なお、なぜ異世界に転生できるのかは一切説明されない)、そこで愛について語らせれば右に出る者のないエルフの超絶イケメン・テゴシに師事して婚活パーティの極意を学び満を持して現実世界に戻るのだが、異世界の常識(というかイケメンの常識)と現実世界の常識(というかブサメンの常識)があまりにも異なるためかれの態度は全員から無礼以外のなにものでもないと判断され、最終的にはまったく無双できないままバレリーナを騙る女性の身体が金剛石のように固いことをイジって逆鱗に触れ、ガトリングガンであわれ蜂の巣にされてしまうのである。こんなものはひと昔前なら候補作にも挙がらなかったはずだが、グリグリの大本命として登場し普通にほぼ満場一致で受賞していたので、私は三日三晩頭を抱えまくって頭皮がズルむけた。このようなゴミレベルに堕落してしまったグランド芥川賞EXを今後も続けていく意味が果たしてあるだろうか? まず現在の選考委員からして一万年後には誰ひとり覚えていないようなクソザコ揃いで、そんなクソザコのダンゴムシほどの脳ミソにすっぽりおさまるフリスク程度のサイズ感のバリショボ駄文が意味不明の痴呆的選評で褒め称えられている現状は相当深刻だと言わざるをえない。こんなことを愚痴っているとマジで情けなくてメチャメチャ泣けてきた。そんな中、今回のグランド芥川賞EX選考委員で唯一気勢を上げていたのは巨石原チン太郎である。巨石原氏はガトリングガンで主人公がブチ抜かれるラストシーンについて、「ガトリングなんて僕たちのころにはみんな簡単に避けていたがね。特に拳闘をやっているやつなんて鍛えているから、腹に当たっても平気だった。隔世の感があるな」と異議を唱え、本当にガトリングを避けるところを見せてやる、避けられたらこの駄作への恥ずべき授賞を取り下げろと豪語し、あえなく天に召された。ほかの選考委員たちは「なお、巨石原氏については老害ワロタというほかない」などと冷笑的だが、言うまでもなくほんとうに笑われるべきはかれら彼女らのほうで、正面から文学と向き合い全身全霊で選考に臨んだと言えるのは巨石原氏だけである。だが、かれはもういない。今後作家や文学賞のレベルは亜光速で低下していき、何も言っていないに等しい空疎な文学に何も言わないほうがましな空疎な批評があてがわれ、売上だけが指数関数的に増加し続けるというポスト・アポカリプス的状況が訪れるだろう。私はもうこんなアホみたいにショボくれた現代文学の再興に期待するのはきっぱりやめにして、真の意味で新しさを永遠にまったく失わない夏目漱石とかを穴があくほど読み返しまくって超楽しすぎる余生を過ごすこととする。

 この時評の文庫化にあたっては全宇宙で知らぬ者のない最強グルメ編集者兼プロ棋士を名乗る某氏に若干世話になったが、某氏は過去にまったく類を見ないほどメチャメチャにひどすぎるセクハラ(女性を多目的トイレにマムシのごとく執拗に招待し続けたり、超いきなり「(自宅に)突撃しまーす」と留守電を残したりして想像を絶するほどヤバすぎる大恐怖を与えまくるなど)を二千発以上ブチかましていたことが全世界全人類にバレたうえ、内輪向けの動画で「おれはこういうシャブは打ちますよ」「シャブは打つ男です」と言いながら腕をパッシパシにしばいてこれでもかと静脈を浮き上がらせてから注射器でシャブをブチ込みまくり、トチ狂っているとしか思えない自作テクノポップの「ゼッタイゼッタイ☆セクハラ反省しない宣言」を六千回以上熱唱した挙句、一メートルはあろうかという超長い性器(ただし太さは一般的)を露出しながら「いでよ、聖剣エクスカリバー!!」と叫んだ罪で先日死刑に処された。一応少しは付き合いのあった男であるから、死後になってしまったが私はかれの主著である『入滅以外むしさされ』を買ってみた。この赤面必至の壊滅的にダサすぎるフレーズは文芸界隈ですこぶる評判が悪くほとんどおふざけネタのようにしか扱われないが、ネタ化されすぎるあまり全然誰一人としてマジで読んだ者がいないということをわたしはかなり危惧していた。タイトルのクッソ恥ずかしい文字列と著者のこれ以上下がりようのない最低の品性下劣極悪非道なパブリック・イメージだけで読みもせず内容を憶測し徒らにその価値をおとしめることは、かなりヤバめの思考停止である。芸術を愛するあまりビジネス的価値観を過剰に軽んじ疎外する心性は、商業主義に魂を売り渡し芸術を顧みない愚か者のそれとほぼ同質と言うべきである。さて、多少の期待を胸に『入滅以外むしさされ』を開いてみると、マジで文字がクソデカい。一ページに十文字ほどしか書かれていないところがあり、何か新しいことを提言している空気を醸し出しているが実際の内容はメチャ古くさいうえにスカスカで、昭和中期ぐらいのモーレツ社員的マインドを焼き直して称揚しているだけである。やはりこのアホ丸出しの著者が昭和中期ぐらいのちょっと成功した男がやりたがりそうな(しかし99.999%の人間は理性の力で頭の中に妄想として押し留め「……なーんてな」とひとりごちる程度で終えるはずの)凶悪セクハラ事件をマジでガチアホすぎるあまり現実に引き起こしてしまったことは悲しいが必然と言える。こんなド腐れゴミ本を平気で出版し、しかもここ数十世紀で最凶最悪と言える殺人級セクハラによって一人の人間に著しい精神的・肉体的大苦痛を与えたドブカス人間は、ただ死んで終わるものではない。地獄の業火で全身を炭になるまで焼かれながら何度も何度も腹を切り、生まれ直す可能性の完全に潰えるまで徹底的に死に続けるべきである。

 なお、文庫化にあたっての加筆修正などはクソめんどいので一切していない。このあとがきもクソめんどいので三十秒で書いた。資料にも全くあたっていないので事実の誤認や混同もメチャメチャあるに決まっているが、クソめんどいのでこれで終わる。読者諸氏におかれては、こんな『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の録画を見ながら書いたゴミクズみたいなでっち上げのあとがきよりも、ぜひ世界最高傑作の呼び声高い本編の時評を死ぬほど繰り返し楽しんでいただきたい。

2020年6月25日公開

© 2020 佐川恭一

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