その1
椎の木の 共寝の根元 軒の石
しいのきのともねのねもとのきのいし
<鑑賞の手引>
あの人と共寝した椎の木の根元、軒には石が。
しょっぱなから分かりにくい。
椎の木の木陰はさぞ寝心地がよいとは思うが、どんぐりの季節にはやめておいたほうがよい。頭上からどんぐりが降り注いで逢引きが台無しだ。しかし「軒」の意味がよくわからない。椎の木の根元が軒下だったのか。だったら家に入ればいいものを、と疑念が尽きぬ難解な句である。
その2
宮の北 神輿押し込み 滝の闇
みやのきたみこしおしこみたきのやみ
<鑑賞の手引>
賑やかな祭りも終わり、神輿をお宮の北倉庫へ押し込んで、皆、闇の滝へと消えていった。
真っ暗な滝に近づくのは危険である。ましてや祭礼で少なからず酒も飲んでいるだろうから足元がおぼつかない。
くれぐれも夜の滝はうろつくなとの戒めであろう。
その3
ブチ孕む 田舎行かない 村八分
ぶちはらむいなかいかないむらはちぶ
<鑑賞の手引>
ブチが身ごもってしまった、田舎へは決してゆくまい。村八分になってしまう。
見たまんまだが、「ブチ」が何者かが気になるところである。ブチという名の犬か? 田ブチさんとか小ブチさんという名の女性だろうか?
犬が孕んだくらいで村八分としたら相当な愛犬村であるが、さもなければ名主の田ブチさんのお嬢様に手を出したか?
さまざまに想像を掻き立てられる秀句である。
その4
シリアまで イラク落雷 デマありし
しりあまでいらくらくらいでまありし
<鑑賞の手引>
イラクが落雷で壊滅したとのデマがシリアにまで伝わっていた。
今ではイラク発生のISのせいでシリアが壊滅状態になっている。どちらも早く復興してほしいものだ。
その5
柿の実も 北風かたき 樅の木か
かきのみもきたかぜかたきもみのきか
<鑑賞の手引>
おいしい柿の実がなる秋の日々も、北風が仇のように吹き荒れた後は、冬がやってきて硬い樅の木が飾られるクリスマスとなるのか。
移りゆく日々を日常の木々に託したしみじみと胸を打つ名句である。
しかも「仇」と「硬き」を掛けて使用する心憎さ。おまけに秋の季語「柿の実」、冬の季語「北風」「樅の木」を同時に登場させるという二重の季語重複という荒業をやってのけている実に見どころの多い句である。
その6
濡れ返す 儚き仲は 末枯れぬ
ぬれかえすはかなきなかはすえかれぬ
<鑑賞の手引>
濡れ濡れに責められてはまた濡れ返し、と際限ないほどに乱れた一夜だったが、所詮は縁薄い儚い仲。
先の望みなど枯れて消え去ってしまったことだ。
うむ、たまには濃厚な大人の情事をひねり出して見ないとね。
その7
なかなかサ いぶしてしぶい 魚かな
なかなかさいぶしてしぶいさかなかな
<鑑賞の手引>
夕飯の魚を焦がしてしまい負け惜しみで詠んだ句。
さぞかし煙臭かったことであろうと涙を誘われる。
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