電車の中でたまたま見かけた広告が縄文時代についての講座だったので、応募してみたところ、幸運にも抽選した。テーマは「青い森と海が育んだ縄文スピリット」である。三内丸山遺跡の発掘責任者であった岡田康博による約一時間半に渡る講演だった。
おそらくは地域振興の予算に絡む講座なのだろう、会場はサピアタワーといって、商業施設・オフィス・カンファレンスルームを兼ね備えた、最近大都市圏でよく見られる高層建築物だ。スーツに身を包んだ異常に多い受付の人数、座席に置かれたパンフレットとアンケート用紙、座席でねむりこける高齢者などなど、国策カルチャーイベントに多い光景が繰り広げられていた。
悪かった点
まずは、悪かった点から。
- このイベント自体が「縄文時代に興味を持ってもらおう、そしてあわよくば青森に来てもらおう」という趣旨が透けて見えていたので、総論的な内容が多かった。以前紹介した国立科学博物館にいけば見られる資料も多く紹介されていた。
- 質問タイムがなかった。こうしたイベントでは普通質問タイムがあり、私が以前参加したル・クレジオの講演でさえそうだったのだが、このイベントでは終了の合図とともに講演者がさっさと帰ってしまった。「下々の者と先生を会話させるわけにはいかない」という官製イベントの悪い面がふんだんにでていた。
よかった点
よかった点としては、新しい発見がいくつかあったこと。
- うるし塗りのような工芸技術がすでに確立されており、そして、それゆえに一般的な縄文イメージとは異なる高度な社会性が存在していたことがわかった。
- 海外の同時代の比較調査などを行なっていた。縄文をめぐる言説では、「日本のもっともコアな部分」という特権的なポジションをとりがちだが、実は東アジア文化圏(中国・モンゴル・韓国)でその影響範囲を突き止めようという意欲的な研究が行われている。
こうした細かな点を総合して、今回の講演での最大の収穫は岡田康博という人物を知れたことである。岡田氏は縄文ファンというサイトで縄文に関するエッセー「縄文遊々学」を発表しているので、これをざっと読むだけでも、縄文小説にリアリティをもたらすことができるだろう。
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