本論はDaisy & Becky Co,Ltd.の就職希望者であるアルベルキオ・高橋・バッティオーニの来歴保証年次短信である。
アルベルキオは二一一六年現在で二八歳。シンガポール籍男性である。居住経験国はシンガポール王国、日本国、中華共和国。以下、個人特性について記述する。
- 重篤な病歴はなし。アルベルキオは一八歳のとき交通事故に遭い、ムチ打ち症の報告があるが、MRIによる検査で異常は発見されていない。国際医療カルテデータベースでのクエリは二〇年、四〇年のレンジで期待値一二・〇〇を返しており、これは平均を二ポイント上回る許容範囲である。ただし、運動ポイントを加算させている趣味のサーフィンは、キャリア変更的リスク項目として特筆に値する。勤務地によっては、このリスク項目の増減が見られることを留意されたし。
- 学歴に関して。アルベルキオは史学と工学双方の学位を取得予定。現在はシンガポールの国立南洋理工大学情報工学科修士課程に在籍、専攻は量子ビット・エンジニアリングである。張許容教授の研究発表「バベッジ解析機関から階差機関への自動的転換」においてチーフアシスタントを務めたことが業績として挙げられる。NTU進学前に武漢大学外国言語文学学院の修士を取得。東アジア史における日本語の外国語受容についての研究発表『日本語話者の現象に見る膠着語の構造変遷メカニズム』がある。同研究により、アルベルキオは日本国においてクールジャパン推進庁主催のコンクールで文部科学大臣賞を受賞している。東アジアでの影響力伸長を目指すD&B社にとって、アルベルキオの二つの素養はまたとない組み合わせであり、その学力ポイントに一・二を倍しても余ることはない。
- 人的資源について。アルベルキオ二八歳までの交流はのべ二◯、◯◯◯人、フィジカルな交流は三◯◯人となる。ネットワーク構成力の期待値はC。これは平均値と同値であるが、後述する地域分散特性を考慮に入れるとBとなる。アバター離散傾向は低く、オンラインでの行動は現実との乖離が少ない。炎上は三度経験しているが、そのいずれもが有名人に対する言及についてであり、政治的・半社会的なものはない。
- 恋愛傾向について。アルベルキオの交際経験六人、いずれもストレート。交際開始年齢は一三歳から。性交に関するアクセス可能な情報は二一〇四年から二一〇八年に隆盛を誇ったLLLに存在する三人に関してであり、そのいずれもが合意に基づいた健全な関係であることを同サービスの倫理保全資料が証明している。優位交際期間として挙げられるのは半年が二人、二年が一人。このうち二年のものに関しては、現在も交際中のヴィクトリア・ケイシーである。ケイシーは三〇歳の香港国籍女性で、アルベルキオとは武漢大学の同級生である。ケイシーとのパートナーシップは長期的なものになると見込まれており、当人たちもその継続に関する積極的な投資を行っている。具体的には不動産ローンの形成、奨学金債権の企業譲渡許可取得、WLBAおよびSAへの加入である。ケイシーの来歴保証年次短信は内定前最終審査よりアクセス可能となる。
以上をもって、アルベルキオ個人の保証を終わる。以下、来歴保証の項目に移る。
アルベルキオの家系図は五世代までアクセス可能である。典型的な東アジア型と東欧・南欧型の混交ツリーであるため、全世代の影響が強く教条的正確を持つ。家父長的な婚姻を好み、ここ一五〇年の趨勢にあまり影響を受けていない無変化勢に属する。
まず、父方ツリーについて。それぞれのノードの確度は平均して〇・八五。犯罪発生率が若干高いためスコアを落としているが、その多くは交通関係および税金関係である。これは四世代前のバッティオーニ家にチトー家が合流した地点で多く発生している。これは曽祖父にあたるマリオ・バッティオーニが自ら開拓している総合都市開発企業を急成長させたことが大きい。こうしたビジネス・ドリブンの人間が脱法的な思考を持つこと、そして、それゆえのじゃじゃ馬的性向こそが成功をもたらす要因であることは統計的に明らかであり、アルベルキオの父方ツリーの評価を全体的に押し上げた要因となっているがある。
他に特筆すべき点としては、傍系ではあるが、マリオの娘がスペイン王家に嫁いだことなどが挙げられる。
続いて母方ツリーについて。父方が南欧を中心とした民族的多様性に富むことと比較して、母方は安定的に日本国籍である。アルベルキオの母である高橋紫苑は中産マニュアル階層に属し、00年代後半の日本人女性に優勢だった国外でのキャリアアップを追求したため、結果的にジュリオ・バッティオーニとの婚姻を達成したが、それまでの世代では民族的および言語的流動性は低い。全体的なポイントとしては日本国内における平均的な水準を保っており、確度は〇・七九。
特筆すべきリスク傾向としては、四世代前および五世代前に作家がいる。四世代前の高橋文樹は自身の活動における広報の一環として、アバターの保護を行わなかった上に、晩年はその作家としての不遇を後世に託すべく千年司書運動に共鳴した。これは二〇四〇年から活動を開始した運動で、自身に関するすべての情報をアーカイブしておくことで、いつか技術が発達した時代にアバターとして復活しようという試みである。二〇八八年の国際情報総量規制以前の運動はその毀損を保護されるため、いまでもがその法的な存在を保っている。その幾つかの情報は統計的有意性を持つまでには至らないが、その他のノードとくらべて圧倒的に情報密度が高いため、幾つかのリスク要因を指摘することができる。
高橋文樹は二〇一六年に開催された小説の合評会において、自身の性的体験について語っていることが音声データの要約抽出で判明している。その証言には曖昧な点が多く、柔道場の畳についた血と自身はじめてとなる性行為が密接な関係を持っていることが示唆されているのだが、これは当時高橋文樹が所属していた柔道部が男性部員しかいなかったことを鑑みるとその性的嗜好がストレートであったことは考えづらく、その五人の子供が果たして愛情に満ちた生育歴を持っていたのかは考えづらい。たとえばこれはリスク要因として指摘できる。また、そもそも千年司書運動の参加者集団が優位なリスクを持っており、後続世代へ与える影響度はマイナス〇・三ポイントと算出されているが、多くの場合高いマイナスとほとんどないプラスというクラスタから構成されるため、被害は甚大になる傾向が強い。これはつまり、取捨選択のない情報は役に立つことがほとんどなく、害になった場合は深刻だということを意味する。この傾向に関してはまだ十分な検証期間がないため、今回の調査については考慮に入れていない。
これらの情報を総合すると、アルベルキオ・高橋・バッティオーニの来歴評価は平均して八・一六となる。Daisy & Becky Co,Ltd.の業務内容がストレートなカップルに対するセックス・グッズの提供であることを考慮に入れると、要求水準七・一〇を超えている。以上でアルベルキオ・高橋・バッティオーニの来歴保証年次短信を終える。
- 年次短信作成日
- 二一一六年三月二日
- 有効期限
- 二一一七年二月二八日
- 作成者
- Histoy IO INC. トーマス・ベンダーソン
- 作成依頼者
- アルベルキオ・高橋・バッティオーニ
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