フランスは辞書の国だ そこには芸術の定義が載っている
少なくとも文学は芸術ではない 音楽も 映画も 絵も 建築も 踊りも 彫刻も みんな芸術なのに
文学は芸術ではない
詩だけがただひとつの例外だ
そうだ 詩こそが文学なのだ
詩だけが例外なのだ
形式を持っている 最初から最後まで覚えていることができる 書かれるのではなく詠まれる
それらすべてが詩を芸術たらしめているのだ
オードが ソネットが バラッドが
詩なのだ
僕もまた詩を書こう
その詩を聞いている人の瞼が
ゆっくりと重たくなって
自ずと帳をおろしてしまうほどの長い詩を
世界の歴史についてや 神の創造について
酔っ払った船や 映画を撮る若者たち なりやまない太鼓 外人部隊の訓練の様子なんかどうだろう
母音や懐かしい色についての詩なんか 気が利いている
とにかくそんなことについて 恐ろしく長い詩を書こう
僕の詩を聞いた人は
なんだか眠たくなってくる
ああこれが芸術か なんて眠たいんだ でも我慢して聞かなければ
そんなことを思う
必死に眠気を振り払っても ねっとりと瞼が重くなってくる ついに緞帳が降りてきて 観客席は暗転する
見る者が劇を終わらせる
重たげな赤い緞帳の中は暗く もう拍手は聞こえない
舞台の照明が落とされ 緞帳を赤く透けさせる観客席のライトだけが見える
向こうではきっと誰かが眠りについている
僕はそういう長い詩を書こうと思う
"眠たくなるほど長い詩"へのコメント 0件