ゴミ処理場

小林TKG

小説

2,374文字

5を出したので、6も出せたらなと思いまして書きました。

家から、そう遠くない所にゴミ処理場、環境センターがある。そのゴミ処理場には入浴施設も併設されている。なんでもゴミを焼却する際の熱を何かに使えないかという事で、そういうものが考えられたらしい。私も一度行った事がある。施設は六十歳以上の方が安く入れる料金設定になっており、それこそ芋の子洗いの様に人がいた。食事が出来るところもあったりしたし地域のコミュニティセンターの様な役割も併せ持っているのだろう。湯はぬるめで長く入れて、良かったは良かったのだけど、でもなんとなくそれ以降は行っていない。しかしまあ、一度そうやって行ってみない事にはわからない事であった。そういった意味で言えばまあ、良かったのだ。こういった事が無かったら私は未だに荒川沿いに建っているあの巨大な建物がゴミ処理場だと認識していなかったかもしれない。高く伸びた煙突、そこから吐き出される白い煙、ゴミ処理場かなとはわかったかもしれないけれど、そのゴミ処理場に入浴施設がある事は知らなかったかもしれない。そのゴミ処理場でこの夏、一か月だけの短期バイトを募集しているという。町内ごとに設置されていると思われる掲示板にその様な内容のポスターが貼ってあった。家に帰ってパソコンで調べてみると、確かに募集は行われていた。夏のある一か月だけ。土日を除けば二十日程度。四週間。一日九時間拘束八時間労働。残業無。夜勤。高時給。場内作業員。作業着安全靴マスク軍手などは全て支給される。家から遠くない事もあって、ちょっと行ってみよう、やってみようかなという気持ちになった。

まあ、とりあえず面接だけでも受けてみようかと、そのまま応募フォームに自身の情報を記載し送信した。すぐにご応募ありがとうございました。というメールがメールボックスに入ってきて、それをなんとなしに見ていると、電話がかかってきた。スマホの画面に表示されている番号を見て、パソコンの画面を確認すると、それはゴミ処理場、環境センターの番号であった。電話に出ると、担当者と名乗る方の声が聞こえてきた。早くないかと思った。いくら何でも。しかし、そんな事は声音には出さず私も一応、感じのいい対応をした。したつもり。心がけた。そんなに早いんですかというような感じは声や態度に出ていたかもしれない。そのまま住んでいる場所の確認をされたり、面接の日取りを設定されたりした。その後、面接に向かうと、夜勤に慣れているかどうかだけ確認され、その後はもう面談もそこそこに場内を案内された。場内はほどほどに涼しく、ゴミの臭いも感じなかった。空調設備が優れているのだろう。

「夜勤帯で行う事は、冷蔵庫等の処理です」

ゴミ処理場の中を案内されながら担当の方に夜間業務の説明された。昼間仕事をしている人間が夜中、冷蔵庫やら洗濯機を処分してほしいと車に積んでやって来るのだという。

「処分してって人がそんなに来るんですか」

冷蔵庫やら洗濯機やらを。夜中に。沢山。

「昼間に仕事をしている人はそうなんですよね。どうしても昼間の間に出来ないからと、夜中に来られるんです。直接持ってくる場合に限っては処分費もかかりませんしねえ」

はあ、そう言うものなのか。私は車を所持していない為その辺の感じ、感覚はよくわからない。今の生活になって一回ずつだけ、冷蔵庫と洗濯機を買い替えたが、どちらもAmazonでの購入で、配送、設置、処分も全部やってもらった。幾らか余分なお金は払ったが、特にそれに不満などは無かった。

業務内容は処分品を車から降ろして、受け取りましたという対応をし、処分希望者のサインをもらって、処分品を専用の大型のコンテナに投げ入れる。というものだそうだ。そのコンテナは日勤帯の人間がフォークなどを使って別の場所に運ぶため、とにかく夜勤帯はコンテナに納める所までやればよいのだという。またそれらを一人でやる訳では無く、分担作業、十五名程の人員で行うそうだ。一人一人の負担を軽くするためだという。

「車から運び出す時は気を付けてください」

でも軽トラックで持ってくる人間も多いそうだし、慣れたら大丈夫だという。大体一日に平均三十人から四十人程度の人間が処分品を持ってくる。八時間の勤務の間、特に忙しいのは日が変わってから二時位までとの事。明るくなるともうほどんど誰も来なくなるそうだ。待っている間は待機、スマホを眺めていても構わない。交代で昼休憩を取る。

そんな感じで面談、場内見学は終わった。家に帰りながら、そう大変でも無いんだろうか。と思った。勿論大変は大変だと思う。でも、冷蔵庫やら洗濯機を一人で運ぶわけでもないみたいだし。つまりはまあ、後はまあ、人。人間。一緒に働く人間によると思った。また処分品を持ってきた人間の感じだろう。それさえなんとかなれば、そうそう忙しくはない。高時給の仕事である。あと就業期間中は入浴施設の利用も無料で出来るらしい。施設の開店前の一時間が使える。そして帰る。

魅力的な仕事かもしれない。私は家も遠くないし。面接時の担当者の感じも悪くなかった。夜勤帯。高時給。土日休み。何よりも、後腐れのない一か月の短期バイトだしな。

しかし結局、私はその職場では働かなかった。申し訳ないのだけど、本当に社会人失格と言われても仕方ないのだけど、その後、採用のメールが来ても環境センターからの電話がかかってきても私は一切対応しなかった。業務に関するある噂をネットで見たからだ。

『冷蔵庫のドアとか洗濯機の蓋をガムテとかでグルグル巻きにして絶対に開かないようしてる。あれ、中に子供が入ってるんだよ。だからみんな夜中に持ってくる。こっそりと。それをゴミ処理場が処分しているんだよ』

それを見たからだ。まさかとは思う。そんなのありえないだろうと。でも、結果的にそれで、それを見て私は、

 

2024年11月3日公開

© 2024 小林TKG

読み終えたらレビューしてください

この作品のタグ

著者

この作者の人気作

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

"ゴミ処理場"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る