僕の心はゴミでウンコでゲロで産業廃棄物で悪性腫瘍:ディレクターズカット

小林TKG

小説

5,400文字

古賀コン6で使えなかった諸々をこちらで再利用できて僥倖でした。

駅の改札、ゲートの所にシールが貼ってあった。昨日まで見た事ないシールだったから、今日貼られたのだろう。あるいは、もうずっと前から貼ってあったのかもしれない。ただ僕がずっとそれを見てなかっただけの事なのかもしれない。シールにはハーブ四元豚と書かれていた。その横には《はじめまして》とも書かれていた。まるでハーブ四元豚が言ってるみたいだ。そう感じた。改札を抜けて歩きながらハーブ四元豚がそんな事を言うだろうか。そう思った。これから食べられるのだ。恐らく。だってそうだろう。食べられる以外に四元豚がハーブ四元豚になる必要がないじゃないか。それ以外に豚がハーブ豚になる必要がない気がする。

そこまで考えて、急に面白くなって少し笑った。マスクの中でニヤニヤとしてしまった。誰かに見られていたら気持悪がられるだろう。幸いにも、それはマスクの下の事だった。良かった。本当に。

「何を考えているんだ」

僕は。マスクの下で独り言を言った。

豚という言葉はよく悪口として使われる。太っている人間に対して豚という人間がいる。だらしなく太った体型の人間に対して豚という。しかし実際の豚というのは筋肉の塊なのだそうだ。以前、何かの番組で見た。豚の体脂肪率は平均して15%前後。人間の成人男性の平均体脂肪率は10%から19%。25%を超えると肥満と言われる。つまり豚の体脂肪率はアスリート並みに優れているという事だ。

僕の体脂肪率は16%。肥満ではない。トップアスリートには及ばないかもしれない。けど、まあ、そこそこのもんだろう。週に何度かジムに行ったり、ランニングしたりしている。水泳も。だからこうなった。こうなっている。

連絡が来た。電話が。スマホを見ると画面に電話番号が羅列してあった。登録してないからだ。僕はそれを見て息が止まった。来たと思った。スマホを持ったまま固まっていると電話が切れた。何度目か、何度コールがあったんだろうか。長い事だったとは思う。でも意外と短かったのかもしれない。

すぐにまた電話がかかってきた。同じ番号からの電話だった。今度はすぐに出た。それで、僕はその電話の相手と話をした。久しぶりだなあ。相手はそんな感じだった。こっちは、僕は、はい。まあ、そうですね。と言った。自分の声とは思えないほどガラガラとした声だった。元気にやってるのか。でも、この人はそんなの意に返さない。いつもそうだ。いつもこうなんだ。それから、この後の予定を尋ねられた。僕は、空いてます。行きます。と言った。二十時頃に駅の所で待っててくれ。迎えを寄こすから。そう通達されると電話は切れた。電話が切れても暫く、僕はそこに立っていた。どこに行くわけでも無く。立ったまま。通話が終わってホームに戻ったスマホの画面を眺めていた。画面が暗くなるまで僕はただじっと、スマホを眺めていた。暗く、画面がブラックアウトしてから、晩御飯を彼女と一緒に食べるはずだったのだと思い出した。どうしよう。なんて言って彼女との約束を断ればいいだろう。

「ごめん。今日、急に用事が出来てさ、晩御飯食べれなくなった。ごめん」

「本当にごめん。この埋め合わせは必ずするから。祈里、前にさ、旅行雑誌てみたでしょ。北陸金沢の奥座敷のさ、あれ行けるからさ。祈里の都合のいい時にさ。行けるからさ。だからごめん。本当にごめん」

「いや昔、ライブ会場の設営撤収のバイトの時にさ、偶然そのライブのバンドの人のさ、ボーカルの人に、なんかどこで見られてたのかわからないけど、気に入られちゃってさ。そうあのバントのだよ。歌が凄くて。歌詞が凄くて。パフォーマンスが凄くて。Mステとかも凄かった。今まで言ってなかったけど、僕あの人と知り合いなんだ」

「暫くさ、僕、あの人の男娼としてあの人の家で暮らしてたんだ」

「そのライブの打ち上げに連れて行ってもらってさ、それで、その、僕さ、あの人に手籠めにされたんだ。お酒飲んでさ。飲め飲めってさ、言われたから、調子に乗って強い酒を一気したりして。そんで意識が無くなって。気がついたら、意識がはっきりした時にはもうベッドの上でさ。手、ガムテープで縛られてた。頭の上でさ」

「信じられなかったよ。だってあの人はさ、本当にすごいバンドの人でさ。祈里も知ってるでしょ。それまで女性関係で色々な浮き名を流してた。週刊誌にも撮られてたりしてた。適当な憶測、女優との結婚秒読みか。みたいな記事も読んだ。だから本当に、本当に意味が分からなかった。その時になってもまだふざけてるのかと思ったよ」

「僕はそういう趣味ではないです言った。でもそんなの関係ないんだって。あの人には。そんな事どうでもいい事なんだって。寧ろ」

「そういうのじゃないのを、そうじゃない人間を、そうしたいんだって、あっち側に。こっち側に引き込みたいんだって。そう言ってた」

「それからね。その、その人に足開かされてさ、あそこの周りと尻の周りと剃毛された。その時は本当に震えた。本当に。もしかしたらあの時が一番怖かったかもしれない。暴れるなよって。言われた。暴れると大事な所が切れるかもしれないぞって。シェービングクリームが冷たかった。冷蔵庫から出したんだ。シェービングクリーム。冷蔵庫に入れてるんだって。ハーブの匂いのするシェービングクリームだった。あの人は髭の永久脱毛をしてた。それ、そういう事をする専用のシェービングクリームだったんだ。ハーブの、濃いハーブの匂いのするシェービングクリーム」

「僕があの人の男娼してた期間は短いよ。一年にも満たなかったと思う。そもそもあの人は年中忙しくてあんまり家にいなかった。でも帰れない日が続くとよく僕をホテルに呼んだ。地方にいてもね。どこにいても呼んだよ。海外にも何度か行った。目立たないように来いよって言われた。僕はスタッフジャンパーと帽子、スタッフIDが書かれたネックホルダーを常に持って歩いてた」

「男娼の間は体、胸も乳首もお尻もお尻の穴も、チンポも洗身して綺麗にしてた。脱毛や剃毛はしなかった。伸びたら剃られるんだ。あの人はそれが好きだったから。一回、綺麗にした方がいいと思って、剃って行ったらすごく怒られた。怒られて拘束具で拘束されて、更に小さく縛られてさ、お尻にバイブ突っ込まれて、尿道にも尿道プラグ入れられた。そのままフットレストみたいに床に転がされて体の上、背中に足置かれてさ。泣いた。泣いたよ。泣いて謝った。ほんとうにごめんなさい。すいませんでした。もうしません。もうしませんからって。僕は自分がした事を悪いとは思ってなかったよ。でも辛くてさ。お尻の穴と。尿道が。辛くて。ギチギチに縛られてるのも辛くてさ。辛くて辛くて。本当に辛くて。だから泣いて謝ったんだ。何とかしてほしくて。この状況を、今の状況を何とかしてほしくて。だからごめんなさいごめんなさいって。すいませんでしたって。もうしませんからって」

「許してもらう代償に乳首にピアス入れられた。両方の。なんか、あれみたいなやつ。鉄アレイみたいな形の。銀色の。そういうピアス入れられてさ。それ見せたらおお、可愛くなったなあ。って言われた。いい子にしてたらご褒美もあげるからなって言われて。あと俺もごめんなって言われた。それで頭撫でられた。頭撫でられてポンポンされて。その後、乳首噛まれてさ。ピアス入れた乳首噛まれて。そのまま。噛まれたままイカされた。嚙んだらイケよって言われた。噛んだ時にイクんだぞって。イかなかったらこの可愛い突起を噛みちぎってやるからなって」

「あと、あの人は僕のを扱くのが好きだった。僕の勃起したの扱いて。イカせるんだ。そういうのが好きだった。体の後ろから、扱かれながらさ。耳元でイケイケって言うんだ。耳舐められたリ、噛まれたり、それで僕が泣きながらイクとおー飛んだ飛んだって。壁まで飛んだんじゃないか。って言うんだ。言われた。よく。そう言いながら今度は僕の尻の穴に指突っ込んだりしてさ。玉を掴まれたりして。その時も本当に怖かった。休ませてほしかった。でも、そんな事言えない。言えなかった。言ったら乱暴にされる。口答えしたら不機嫌になって。床に倒されて上からのしかかられて。辛い、辛いイカされ方をする。イってもイッてもやめてくれない。陰嚢がキューってなるような。そんな風にされる。だから言えなかった」

「僕のを咥えるのも好きだったよ。扱いたり、噛んだり、玉を掴んだり、尻に指を入れたり、バイブを入れたり、ローター入れたり、アナルプラグを入れたり、僕で遊びながら咥えるのが好きだった。それ越しに。咥えながら、僕が辛いのを。辛そうにして泣いたりしているのを、泣きながらイケそうでイケない感じでいるのを、見ているのが好きだった。いいって言うまでイケないみたいな事もされた。そんで僕が吐精した精液をあの人は自分の口に含むんだ。お尻の穴とか玉を刺激されながらの射精だったから。凄く出る。出たんだ。毎回。心臓がバクバクとするような吐精。死ぬんじゃないかと思えた。心臓が破れて死ぬんじゃないかと思える様な吐精。射精。それを口に含んだあの人はその後、立ち上がって、僕の口元に近づいてくる。その時、いつも逆光で顔がよく見えなかった。僕は朦朧とした意識の中それを見ていた。逃げる事なんて出来なかった。散々、散々に弄られて扱かれてしゃぶられて、やっと。やっと吐精できたんだ。逆光で顔は、表情はよく見えなかったけど、でも口元がね。笑ってるんだ。それは見えた。これからする事が楽しくて仕方ないみたいに」

「そのまま、あの人は僕の精液を口に入れたまま、そのまま僕にキスするんだ。口に含んだ精液を舌を使ってこっちの口内に流し込んでくる。舌と舌が触れる。絡み合う。僕は辛くて、それが辛くて辛くて。自分の精液なんて。そんなの嫌だった。飲むなんて考えられなかった。でも、飲まないと、飲まないといけなかった。飲むまであの人は僕の口内を舌で嬲った。飲まないと唇を嚙まれたり、鼻頭を噛まれたり。飲まないといけなかったんだ」

「嫌だった。本当に嫌だった。あの期間、本当に嫌だった。思い出すだけで震える。震えるよ。その、その人に呼び出されたんだ。解放されてからも今日みたいに偶に呼び出されるんだ。だから行かないといけない。行かないといけないんだ。でもね、その、正直言って僕はあの人は悪くないと思うんだよ。だってあの人は僕が、最初の時、あの時に僕が本当に本気で抵抗したらすぐに解放してくれたんだから。でも、僕はそうしなかったんだ。あの人に憧れて、設営のバイトに行ったんだ。一目でも見れるかなって。そう思ったから。あの時、あのベットで目が覚めた時、僕はこれから、今からされることを想像して勃起したんだ。手を縛られてたのに。あの時、僕は」

「僕は」

「だから」

「今だって体臭がハーブの匂いになるサプリを飲んでる。祈里、知ってるでしょ」

「だから」

「僕が悪いんだよ。僕がそういう事を望んだんだよ。きっと。僕の心は汚れてる。汚れて腐ってドロドロで。喫煙者の肺みたいに真っ黒に汚れてるんだよ」

「僕の心は腐ってるんだよ。僕は豚なんだ」

「こんな連絡、本当は無視したっていいんだ。でも、出来ないんだよ。嫌なんだ。嫌で嫌で堪らないんだ。でも、それでも、僕は、それなのに」

「でもね、そのおかげで、面白い話もしてもらえたんだよ。あの人のあのバンド、凄く人気でしょ。もうずっと人気だ。でも、最初はほんとただの偶然だったんだって。サークルの宴会芸、ノリで始めたバンドだったんだって」

「そんなの信じられなかった。でもそう言ってたよ。あの人。そんな水カンのエジソンの歌詞みたいなさ、そんなの信じられなかったよ、今でも信じられない。何か大いなる野望って言うか、やってやるっていう志っていうか、そういうので始めたと思ってた。でも、それがまた親近感が湧いてさ」

「男娼から解放された後、家に帰ったら、家の家賃やら維持費、携帯の料金とか、そういう諸々をあの人が払っていた。その後にあの人の代理人っていう人が来て、五年くらい働かなくても暮らせる程のお金をもらった。税金とかの心配もないって言われた。乳首のピアスを取る費用もくれた」

「それからも会うたびにね、あの人に愛してもらう度に、そういう事がある」

「そのお金で旅行している時に、祈里。僕は君と出会ったんだよ」

「だからごめん祈里。あの人に呼ばれたんだ。僕は行かないといけないんだ」

電話で僕は祈里にそんな事言わなかった。ただ、急用が出来て行けないとだけ伝えた。

「そうなんだ。残念。じゃあまた改めて行きましょう」

祈里は詳しく尋ねるわけでも無く、ただそう言って了承してくれた。僕は祈里に謝った。祈里はいいよいいよと言ってくれた。あ、でも旅行には行けるから。祈里。君の行きたがっていた旅行には行けるからね。だから今度行こう。北陸金沢の奥座敷。一泊なんてそんなみみっちいのじゃなくてさ。一週間でもいいよ。二週間でも構わない。今から僕があの人の所に行ってそれでたっぷりと愛してもらえば、それ位はなんてことないんだ。ビジネスホテルみたいなやつじゃなくてさ、いい旅館でもいいよ。部屋に露天風呂が付いているのとかさ。そんなの楽勝だからね。だから祈里。今度一緒に行こうね。

2024年10月22日公開

© 2024 小林TKG

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