02 インテンシヴ

EOSOPHOBIA(第2話)

篠乃崎碧海

小説

12,485文字

三人の訪問者と、彼の縋るものについて

 

「今日は呼んでない客ばかり来る」 

 極めつけがあんただ。我が物顔でソファに腰を下ろした本日三人目の訪問者に、蒼月はうんざりしながらコーヒーを出した。

「ここを訪ねてくるのはちょっと頭のネジが緩んでるか、すっかり飛んじまった奴ばかりだろう。外で会うならいざ知らず、こんな人知れず消されそうなところに足を運んでまで情報を得ようだなんて奴は、だいぶイカれてる」

「人聞きが悪い。手始めにあんたから消してやろうか」

 よく言う、と訪問者は笑うと、まるでこの部屋の主人のような態度で、いいから座れと空いたソファを指差した。指差す手には小指がなかった。

 

「いつもの組長直々のご依頼だ。わかったら大人しく診察されろ」

 だから招き入れたくなかったんだ、と蒼月は盛大にため息をついた。

「あのじいさん、もうろくして俺を孫か何かと勘違いしてるんじゃないのか。俺に構う暇があったら自分の高血圧と糖尿病をどうにかしろと伝えておけよ、ヤブ医者」 

「本人の耳に入らないところとはいえ、泣く子も黙る神津組組長をじいさん呼ばわりできるのはお前くらいのもんだ」

 それと何度も言うが俺はヤブじゃねぇ、免許がうっかりなくなった・・・・・・・・・だけで腕は確かだって言ってるだろ。先の大戦をその身で知っているであろうとしえながら、ヤブ医者呼ばわりされた老人は年齢を感じさせない大声で言い返した。

「五月蝿い。あんたの声はいちいち頭に響くんだ」

「しょうがねぇだろ、診療所で若ぇもんが抗争の続きをおっぱじめようとする間で毎日声張り上げて働いてんだ。もう癖になってんだよ」

「ここはあんたの診療所じゃない。無駄な慣習を持ち込むな」

 本当にやめてくれと言い捨てつつ眉間をおさえた蒼月を見て、医者は少し顔を顰めた。

「最低でも月に一度は来いと言っているのに、全く聞く耳持たないからわざわざ俺の方から出向いてやってるんだろうが。いいから座れ、せめて聴診だけでもさせろ」

「余計なお世話だ」

「なあ、俺の立場もわかってくれよ。何もしないで帰れない、組長にどやされる」

 わざとらしく哀れな声で縋る医者に、蒼月は乾いた笑いで返した。

「そんなもの適当に伝えておけばいいだろ。『相変わらず死に損なってました』ってな」

 それかあんたなりの見立てで適当に余命でも伝えておけばいい、俺はそれで見限られたって一向に構わない。蒼月はそう言いながら、ソファの裏に回り込むと医者のちょうど真後ろに立った。首を絞めるのも頸動脈を掻き切るのも、背中から一発撃ち込むのも簡単にできる位置。薄暗い世界に生きる者なら誰だってそこに立たれることを嫌うはずの死角から、蒼月は感情の薄い声で囁いた。

「あのじいさんは俺が病で死のうが撃たれて死のうが、どうだっていいんだ。あんたを定期的に寄越すのは監視のためと、いつまで使えるかを見定めるためだろ」

 振り返った医者の目に映ったのは、半笑いで立ち尽くす蒼月の姿だった。

「黙って見ていろ。少なくともあんたが見立てたよりは足掻いてやるよ」

 医者にはその姿がさながら告別の刻を報せにきた死神のように思えた。一歩離れたところから人の生き死にをどこか楽しげに眺めている死神。ただひとつ違うのは、この死神は自身に冥府の鎌を突きつけておいて、それを自ら楽しんでいる節があることだった。

 こういう目をした奴は大抵ロクな死に方をしない、と医者は思った。常識という一本の線上から足を踏み外すのみならず、体ごとはみ出したような奴は大体似たような気配を纏っている。恐らく一種の想像力の欠如、あるいは判断力の欠如なのだろう。まともな人間が本能で制動をかけるところを、こいつらは半分笑いながらノーブレーキで突っ込んでいくのだ。

 

明石あかしは元気か?」

 手持ちの薬の在庫が底をつきかけるか、大怪我でもしない限りは診療所に寄りつこうともしない不良患者の診察が目的で来たのだが、指一本すら触れさせる気もなければ質問にまともに答える気もない患者に心底うんざりして、医者は仕方なく話を変えた。

「さあな。もう半年近く会ってない」

 むしろあんたの方が知っているんじゃないのか。聞き返してきた蒼月に、医者は首を横にふった。

神津こっちとの繋がりがバレないように上手く立ち回ってるんだろう。姿を見ない噂を耳にしないどころか、名前すらも聞こえてこない。流石にうっかり死んだりはしてないだろうが、知らない間に海外に行ってました、なんて言われても驚かねぇな。あいつ、七澤に潜って何年になる?」

「ちょうど三年くらいかな」もうそんなになるか、と蒼月は呟いた。

 明石というのは神津組の若衆のひとりで、今は訳あって神津の組織の名を隠して七澤組に下級構成員として潜り込んでいる。言うなれば組織のスパイであり、蒼月とは情報を取引し合う関係でもあった。彼と蒼月は年齢が近いこともあり、明石が神津組の組員になる前、単なるストリートの不良だった頃から互いのことをよく知る仲だと聞いている。

「お前に行方を掴ませないほどに徹底してるなら、こちらからとやかく探りを入れるべきじゃないな。邪魔しかねん」

 蒼月が本気で明石の動向および居場所を探ろうと思えば容易く達成できるのだろうが、そうしないのは彼への信頼があるからだろう。どこの組織にも個人にも肩入れしないことを信条としている蒼月だったが、不必要に介入しないというやり方に回りくどい気遣いや優しさが紛れていることに気づく者は少ない。

「正直、あいつに今回のことが向いているとは思えない」

 蒼月は医者の向かいに腰を下ろすと、やや俯きがちに視線を外して言った。

「というと?」

「あいつは根が正直すぎる。息をするように嘘をつけるタイプじゃない」

 微かに苛立ちの溶け込んだ声音におや、と医者は思った。仕事の上では冷酷なまでに完璧な中立を貫く彼にも、感情のゆらぎに呑まれそうになる瞬間は当たり前にあるのだ。

「お前と違って、か」

「そう、俺と違って」

 蒼月は低く笑うと、肚の底まで見通すような底知れない視線をひたりと向けてきた。

 かつては蒼月も素直に感情を見せていた。何かにつけ諍いを起こす同じ年頃の不良少年達と比べればいくらか理性的だったかもしれないが、激情のままに人とぶつかるのを見るのもそう珍しくはなかった。

――決定的に変わってしまったのは、恐らく“あのとき”から。

 

「そろそろ七澤の状況も静観しかねるレベルに達してきてる。組長が見限る前に明石を退かせたいんだが」

 結局それが目的か、と蒼月は首をふった。

「俺をタダで動かそうとするなよ。依頼なら対価を寄越せ」

 旧知の友のためならばと直情的に動かないところは裏社会を生き抜く上で信頼に値するが、こうも頑なだとたまに不安にもなる。こいつはいつか、自らの命や未来までも情と一緒に斬って捨ててしまうのではないだろうか。

「寝ぼけたことを言うな。診察費と相殺だろう」

「勝手に押しかけておいて請求するのか? とんだ悪徳医師だな」とは言え世話になっているのは事実だし、と蒼月は渋々ながらも頷いた。

「で、俺は明石に何て言えばいいんだ? お前のボスがお前ごと七澤をぶっ潰す前に帰ってこいとでも?」

「主旨は合ってる、合ってるが、間違ってもそのまま伝えるなよ。最悪俺の首まで飛ぶ」

「精々もう一本指を失うくらいで済むだろ。両手とも四本ずつになった方がバランス良いんじゃないか?」

 あんたは組長じいさんに信用されてるからな。蒼月は目を伏せて呟くと、そのまま二、三軽く咳き込んだ。

 薄い肩が寒そうにふるりと揺れる。また少し痩せたんじゃないだろうかとぼんやり思う。

「……先に言っておくが、そこまで積極的に動くつもりはないからな。あいつにもあいつの事情があるだろうし、俺も中立の立場を曲げてまで協力するつもりはない。サインを送るくらいに留めておく」

 声の合間に微かな喘鳴が混ざっていた。本人も当然気づいているだろう。取り繕うことさえ難しくなってきていると知りつつ、彼は一度決めた生き方を諦めるつもりは毛頭ないらしかった。

「ああ、それで充分だ。明石も子供ガキじゃない、あとは自分で判断するだろうよ」

 生き残る上で最後に頼れるのは自分自身しかいないと、蒼月も明石も理解している。理解しているからこそ、後ろ盾のない身の上でここまでやってこられたのだ。

 今更年の功だけで彼等に与えられる物など何もない。そうわかっていても何かと便宜を図ってやりたくなるのは、もしも自分に孫がいたならば、ちょうど彼等と同じ年頃であっただろうと考えてしまうからだった。

 

「で、肝心の対価だが」

 わかっているだろうなという顔で、蒼月は底意地悪く笑った。

「いつもより面倒が予想されるから、とりあえず倍は寄越せ。お人好しなあんたからは大した情報は期待できないからな」

 中立のはずの診療所にルールを無視して持ち込まれる厄介事を別のルートから清算したり、神津の名が邪魔になる取り引きを代行したり。大事にはならないが放置しておきたくもない由無事を処理する対価として、蒼月は闇医者から医薬品の類を受け取るのが常だった。

 医薬品といっても違法なものではない。彼が生まれつきその身に抱える欠陥をどうにかこうにか取り繕うための命綱だった。

「先月もなんだかんだでふた月分は渡しただろ。処方制限ってのがあんだよ、お前みたいな濫用患者を出さねぇためにな」

「無免許のくせによく言う。いいから寄越せ、そこらのヤク中と同じにするな」

 安心しろ、備えあれば、だ。蒼月は事も無げに言う。備えるどころか規定量を軽く超えて片っ端から壊れかけの身体に注ぎ込んでいるくせに、と医者は思った。

「濫用はよせ、早死にするぞ。わかってるとは思うが、お前に出してるのはちょっと痛みを取り除くとか症状を和らげるとか、最早そういうレベルの薬じゃない。他人に盛ったら毒になったっておかしくないんだ」

「今更」医者の忠告を蒼月は笑い飛ばした。

 

「出したくても出せない、中々薬が回ってこないんだよ。最近また規制が厳しくなった」

 医薬品自体は違法ではないが、手に入れる手段は法に触れている。先の大戦で完膚なきまでに破壊されたこの国も、三十五年が経ってようやく自立しようと藻掻き始め、国立の病院や施設の整備は随分と進んだ。とはいえその恩恵は代々受け継がれてきた地位と名誉を後生大事に抱きかかえてきた者と、真っ当な職にありつけた少数の人々に独占され、各地のスラムや路地裏でゴミクズ同然に生きる大勢には届かない。もう敗戦国ではない、豊かになったのだと政府が声高に叫べば叫ぶほど格差は広がり、守られるべき国民と見做されなかった人々は、少ない物資を奪い合って今日も明日も理不尽に命を落とす。

 法に触れるからと手をこまぬいていたら生きてはいけないというのが取り残された人々の共通認識であり、その集合意識がこの国をいつまでも貧しいままにしていることを、所謂『上級国民』共が気づく日は訪れるのだろうか。

「また品切れか。あんたのところが野戦病院と化す日も近いな」

 うかつに怪我できねえな、とぼやいた蒼月を思わずはたきたくなった。こいつは自分の身体の危うさを本当に理解しているのだろうか。

「冗談じゃねぇ、あんな地獄を二度も見る人生は御免だ。お前、医者か製薬会社あたりの上客はいないか? もしそういう奴と取引する機会があったら、報酬に薬を頼んでくれよ。できたら一回きりじゃなく、定期的に」

「俺は便利屋でも薬屋でもないんだが。物々交換して生きてるんじゃないんだ」

「お前のためでもあるだろ」

 蒼月はしばらく考え込んだ後、善処する、と不機嫌に呟いた。

「へぇ、無理だと言うかと思った」

「言ってほしいのか? 仕方ないだろ、あんたのところが回らなくなったら、この街のバランスが崩れる」

 蒼月の「善処する」は意外と成功率が高い。本当にどうしようもないときには彼は何も言わないか、無理だとはっきり言う。

「具体的な当てはあるのか?」

「ない。あったら善処する、なんて、言い方は、」

 

 それは突然だった。

 蒼月は酸素を使い果たしたかのように言葉を詰まらせた。穴の空いた袋から空気が少しずつ零れるような、質量のない掠れた咳が落ちる。しかしその響きの軽さとは裏腹に、彼はきつく胸元をおさえた。

「あんた、の、ッけほ、煙草の臭いのせいだ」

 年齢に似合わぬ機敏さで立ち上がった医者を制するべく嫌味を口走ったが、次から次へと溢れる咳の前に為す術もなく、顔を上げることさえできない。ついにぐらりと上体を揺らし、病んだ呼吸と止まらない咳ごと抱きかかえるように背を丸めて蹲った。

「…ッ゛、ぁ……、…っ………」

 痛みのあまりに息を継ぐ間に声が漏れる。胸を絞め上げる咳に喉を潰され、僅かな音しか声にならない。

「蒼月、とりあえず凭れて楽にしろ。おい、聞こえてるか?」

 医者は蒼月の肩に手をやった。普段なら触れる前に躱される手が簡単に届く。荒い呼吸に上下する背を宥めるようにおさえて擦ると、彼はそのまま抗うことなく力を抜いた。

 元から少し緩めてあったネクタイを引き抜き適当に投げ捨て、シャツの釦を上から二つ目まで外す。削いだように薄い胸と浮いた鎖骨がやや暗いライトの下に晒されて、蒼月は何度か呼吸を喘がせるとぐったりと目を閉じた。

 奥の事務机の上に、半分ほどまで水の入ったグラスが置いたままになっている。いつから放置されているかは不明だがないよりはマシだと取ってきて差し出すと、彼は震える手で受け取った。何度か噎せ込みながらもようやく一口飲み下し、掠れた吐息をつく。

 棘立った喘鳴が少し落ち着き、胸元を押さえつける手が膝に落ちた。ついでにグラスまで取り落としそうになったのを回収すると、彼は悪い、と目だけで詫びた。

「動けるか。少し横になった方がいい」

 蒼月は苦しげにひとつ頷いた。支えようと伸ばした手を邪険に拒絶すると、ソファに長身を折るようにして投げ出した。

 無理に動いて血が下がったのか、完全に色を失った唇から喘鳴混じりの呼吸がざらざらと零れ落ちる。呼吸器を病んでいるのではなく、心機能に深刻な問題を抱えるが故の軋みだった。

「もう何度言ったかわからんが、一度入院して治療する気はないか」

 なんならずっと入院していた方がいい、とは言わなかった。言ってもどうせ聞き入れてもらえないことは百も承知だった。あまりしつこく言い続けると話をきかないどころか会ってもくれなくなるので、ここまでが限界だ。

 なおも弱々しく抵抗しようとする手を押し留めて無理矢理にシャツの内側へと通した聴診器に、秩序を忘れた脈拍と呼吸音が届く。意識を失ってもおかしくない滅茶苦茶な心拍でもそうならずにいられるのは、身体が異常な状態にある程度慣れてしまっているからと、強靭な根性でなんとか繋ぎ止めているからに過ぎない。

「情報屋として表に知られるのが困るのなら、神津の息のかかった病院を紹介してやることも、」

「どう、せ……何も、変わらない」

 喘鳴の合間を縫って絞り出すように蒼月は言った。

「生まれつき手遅れ」

 口がきける状態でもないのに無理に言葉を吐いたせいで、その先は声にならなかった。胸の浅いところに爪を立てて引っ掻き回すような咳に襲われて、身を折ってぜいぜいと喘ぐ。

「その様子じゃ相当頻繁に発作起こしてるだろ」

「……さあ、な」

 苦痛に濡れた目が諦めたように僅か笑う。

「他人事みたいに言うんじゃねぇよ。正直に吐け、どれくらい頻繁にこうなってんだ? 薬がなければ治まらない痛みを自覚する頻度は?」

「いちいち、ッは、は……数えてられるか」

「もういい、わかった」

 この様子では二、三日に一度はこうなっているのだろう。薬に身体が応えられるうちはまだいいが、それもじきに限界を迎える。

「……あの人に頼まれたんだよ。『あの子をこれからもみていてやってくれ』ってな」

「嘘言え」 

 あれはそういうことを軽々しく言うような人じゃない。蒼月はぽつりと言葉を落とすと怠そうに首をふった。

「あんな仕打ちを受けたんだ、信じられなくても無理はないが――あの人は、五百蔵は姿を消す前に、確かにお前のことを気にかけていたよ」

 蒼月は目を逸らした。ぼんやりと部屋の隅を映す視線はどこか儚く、弱々しくも見えた。

「ならどうして、何も言わずに消えた? 俺には、知る権利があるだろ」

 どうして。掠れた声に力はなかったが、怒りと悔しさがはっきりと滲んでいた。

 

 蒼月の育て親同然だった五百蔵という男は、九年前にある日突然姿を消した。

 彼は世界の日向も日陰も知り尽くしていた。何が目的でこの街に根を張ったのかは誰も知らない。十五年ほど前にふらりと現れて、それから数年もしないうちに、裏社会でその名を知らぬ者はいなくなった。

 彼は情報を扱うプロだった。先の大戦で陸軍の特殊部隊員だったとか、今もソ連のスパイだとかの噂は絶えなかったが、確たる証拠には誰もたどり着けなかった。彼は蜘蛛の巣を張り巡らせるようにくらがりの世界に独自の情報網を構築し、億単位の金を自在に動かし、南米の麻薬密売人とも対等に渡り合い、何人もの政治家を表舞台から退場させ――そしてある日突然、予兆も理由を告げることもなく、自ら作った情報の網目を利用して闇に溶ける影のように行方をくらませた。

 誰も彼を追うことはできなかった。五百蔵の構築した世界はあまりに複雑で、疑念と怨嗟と汚れた金と血に塗れ、彼以外の人間には泳ぎきることなど到底不可能に思えた。――ただ一人、母親亡き後に彼に育てられ、彼の持つ知識の多くを血肉としてその身に蓄えた、蒼月を除いて。

 正確に言うならば、蒼月も追い詰める以上のことはできなかった。行方をくらませた五百蔵を追いかけ、潜伏先を突き止め引き摺り出そうとした挙句――彼に殺されかけた。今思えば、あれはわざと蒼月ひとりだけが追えるように仕向けられていたのだ。五百蔵は目論見通り自分を追いかけることに成功した弟子を惜しみなく褒め称えた後、容赦なく暴行を加え片足を撃ち抜き半殺しにし、一切合切を黙秘したままに今度こそ完璧に姿を消した。

 

 目的を果たすにはあまりに危うい身体を引き摺ってなお、蒼月は今も五百蔵を追っている。

 より正確に言うならば、彼と彼の背後に横たわる真実を。

 

2021年9月4日公開

作品集『EOSOPHOBIA』第2話 (全9話)

© 2021 篠乃崎碧海

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