スパーク

月に鳴く(第3話)

松尾模糊

小説

2,329文字

電気とは恐ろしいものである。電気椅子を想像してもらえればそれは容易に分かるだろう。今作はアルゼンチンのバンドKrebsのボーカルを襲った悲劇を基に書いた。

フォーンプラグを差し込むと、ブーンと細かな空気の震えが鼓膜を通して伝わって来た。マーシャルのアンプヘッドのボリュームをフルテンにして振動はさらに大きくなり、ハンマリングでノイズがサウンドへと昇華する。赤いホロウボディを揺らして音に変化をつける。めいいっぱいにノイズとサウンドの間を行き来する空気の震えを充満させ、六本の弦にジム・ダンロップのピックを叩きつけた。ステージ下の箱詰めの人々の大きな歓声をもかき消す轟音が空間を満たした。わたしは死んでもいいと思った。その瞬間に味わったことのない衝撃が全身を突き抜けて目の前の景色がぐらりと歪んでプツりとテレビの電源が切れるように真っ黒に染まった。

「はい、右の扉に入って。次!」

2019年9月27日公開

作品集『月に鳴く』第3話 (全16話)

月に鳴く

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© 2019 松尾模糊

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