絶滅者 35

hongoumasato

小説

1,133文字

ついに若松との決着がつく。

そして、無謀にもワタシにむかってくる、若松の父にして、日本極道界のドン・賢之助。

死に際に賢之助は、人を殺すことの意味をワタシに説いて・・・

「親父、駄目だ! 逃げろ!」

 

最後の最後で、若松の正しい発言。

 

若松の動きは、視界の隅で捕らえていた。

 

左手で別の銃を構えている。

 

次の瞬間。

 

先程まで賢之助と対峙していたワタシは、若松の目の前にいた。

 

この男が家に乗り込んできてから、始まった……絶望の日々が。

 

恐怖と諦めを浮かべた若松の目。

 

その目を見据えながら、拳を突き出した。

 

刹那、若松の目が感情を無くす。

 

ワタシの小さな握り拳。

 

それが若松の心臓を貫いた。

 

若松の左胸から入ったワタシの握り拳が、彼の背中の向こう側に突き抜ける。

 

ワタシはゆっくりと腕を引いた。

 

つられて若松の体が、前のめりに倒れる。

 

賢之助が言葉にならない絶叫を上げながら、ワタシに向かってくる。

 

拳銃を撃ちながら。

 

ドスを構えながら。

 

スロー再生の如き緩慢な攻撃。

 

伝わってくる怨念は強烈だけど。

 

すれ違いざまに、賢之助の両腕・両脚の骨を砕いた。

 

うつ伏せに倒れる老組長。

 

ワタシはしゃがみ、賢之助の顔をのぞき込む。

 

「日本有数の暴力団組織の組長が、一二才の少女に殺されるのはどんな気持ち?」

 

ワタシは微笑みかけた。

 

ワタシ達家族に、若松達が冷笑を浴びせたように。

 

賢之助は折られた四肢の苦痛に顔を歪めながらも、ワタシにハッキリと告げた。

 

「人を殺すってことはな、その人間を『否定』するってことだ。そいつの誕生、これまでの生き様、他の人間との繋がり。その全てを『否定』するんだ」

 

老組長の最後の言葉。

 

――「否定」。

 

全てを否定する。

 

その人間の過去も今も未来も。

 

その人間が大切にしている人達も。

 

その人間を大切に思う人達の気持ちも。

 

その存在を「否定」する。

 

生きていれば紡ぎだされたであろう物語を、断ち切る行為。

 

破壊――殺人――否定。

 

「何でワタシが、アンタの前にいると思う?」

 

ワタシは冷酷な答えを返した。

 

「アンタの息子達が、ワタシの家族を『否定』したからよ。それこそ全てをね。アンタ達こそ否定されるべき存在。多くの人間の幸せを『否定』して生きてきたくせに! 偉そうこと言わないで!」

 

賢之助の目から生気が消える。

 

死を、全てを失うことを悟ったから。

 

極道の世界を駆け抜けた男の頭部を、ワタシは踏み砕いた。

2019年2月21日公開

© 2019 hongoumasato

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