エメーリャエンコ・モロゾフ「まんこ舐め太郞の死」佐川恭一訳

佐川恭一

小説

1,571文字

これはモロゾフがウランバートルで羊飼いのアルバイトを始めた頃に書き始めたといわれる「でんでん橋シリーズ」の序にあたるものである。

「私はでんでん橋六郎。この街にまんこ舐め太郎が出没すると聞いてやってきたものである」
「ハ? この街にまんこ舐め太郎など出没せんぞ。そんなものの出没を許すわれらパトロール隊ではない。そんなものが出没していたら、まんこ持ちはウカウカ外も歩けないではないか」
「貴様らはまんこ舐め太郎の出没を隠蔽しまんこ持ちに危険な街を歩かせ、無数のまんこ舐められ事件をもみ消してきたうえに、じぶんたちまでもネロネロとまんこを舐めていたものである」
「お前、何フカシこいとんヤ?」

一触即発である。パトロール隊員は腰に身につけていたスミス&ウェッソンをでんでん橋六郎の額に突きつけた。
「証拠だしてみ?証拠あらへんのやったらお前、ここでパチパチに撃って、ザクロみたいにしたんぞ?」

でんでん橋六郎はおもむろにアイフォーンを取り出す。そして昔仲の良かった女性の、さいきんSNSにアップされていた、身体にぴたりと張り付くニットに強調された豊満バストの写真を表示する。
「なんやコレ? 彼女か? ええ乳しとるやないけ」
「ハァ……」

でんでん橋六郎はため息をつく。そしていう。
「そうだったらどんなに良かったかと、私はまことにそのように考えるものである」
「ハッハ。せやろな。お前こんなマブイのと、付き合える顔ちゃうもんな。コレ、わしに紹介せえ。わしが恋愛工学つこて付き合うたる」
「丁重にお断りするものである」
「なんでや?お前、おれの頼み、断れる立場ケ?おれが指グッてしたら、死ぬんやデ?」
「お断りである」
「んじゃコルァーッ!! いねヤァーッ!!」

でんでん橋六郎はとっさに豊満バストの画像を見た。そして銃口が火を吹いたとき、でんでん橋六郎はその場から突如として消え去った。
「なんやァ!?」

でんでん橋六郎は、なんとNEO滋賀prefの激安ソープの待合室に瞬間移動していた。でんでん橋六郎は、勃起すると行きたい場所へ瞬間移動してしまう特異体質の持ち主なのだ。パトロール隊員の放った弾丸はその先でまんこを舐めようとしていたまんこ舐め太郎の頭をぶち抜いた。まんこ舐め太郎は死に、街に平和が訪れた。だが、まんこ舐め太郎は死の瞬間、不吉なことをいっていた。

「クゥクゥクゥ……! まんこ舐め太郎は、何度でもよみがえるさ……グフ」

死んだまんこ舐め太郎に、まんこ持ちやちんこ持ちはここぞとばかりに石を投げまくった。
「オリャアア! 女性の尊厳を踏みにじった罰よ!」

「俺らまで、まんこ舐め太郎だと思われたジャネーカ!」

まんこ舐め太郎の死体はみるみるうちに血まみれとなる。あたりはほとんど祭りの様相、渋谷のハロウィンなみの盛り上がりである。しかしひとりの京大生が飛び出し、「やめろ!」と叫んだ。
「なによあいつ!!」
「なんだオメー!!」

京大生は「江戸川オナ郎。童貞さ」といった。メガネがキラリと光った。
「まんこを舐めたことのない者だけが、かれに石を投げよ!!」

江戸川オナ郎の見た目は陰キャそのものだったが、その言葉には恐ろしい迫力があった。

すると陽キャどもは男女問わず「なんかしけたわ」「身体がだるおも〜」といって退散した。陰キャはそもそも遠巻きに見物していただけだったので、もう誰も石を投げなくなった。こうして街には真の平和が訪れたかに見えた。

しかし七分後には「粘着舐めダルマ」ことイチカワ海老僧が街を徘徊していたので、市議会は臨時協議会を開き、高度なセキュリティシステムを備えたゲーテッド・コミュニティの実現可能性について議論を始めたが、市議会議員の七割はパソコンに触ったことがなかった。そこで急遽、NEOセタガヤ区基本構想提案者であるキャピタル大学TOKIO教授のミャーダイを呼び講演してもらったが、ミャーダイはなぜか自身が金髪にブルーコンタクトのナンパサイボーグだった時代の話から入ったので、開始五分で全員寝てしまった。

2018年11月21日公開

© 2018 佐川恭一

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