今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2022年4月号

・トップに、野間文芸新人賞、三島賞を受賞している青木淳悟の「ファザーコンプレックス」。変わり者だった亡父と自らの劣等感に対峙し、私と虚の新領域に踏み込んだ渾身の復活作。青木自身も「100%の(初)私小説」と明言し、新たな地平を見せる一作となっている模様。️

・他に古川日出男による戯曲「あたしのインサイドのすさまじき」、黒川創「『カトリーヌ・ドヌーヴ全仕事』」、佐伯一麦「黄金山」、最果タヒ「詩人ちゃん・キル・ミー」などが掲載される。

・2月1日に亡くなった石原慎太郎による遺稿「遠い夢」が掲載される他、追悼・石原慎太郎として、福田和也の「最後の冒険」が掲載される。死の直前まで筆を止めなかった石原が遺したのは、多感な少年と少女の淡き恋だった。

・芥川賞作家の川上弘美と小山田浩子による特別対談「違和感を感じ続けることを選ぶ」も掲載。困難の時代に、二人の重要作家はどのようなことを語るのか。

文學界 2022年4月号

・今月号は【特集】アナキズム・ナウと題し、抑圧と分断を超えて、すべての人が自由に生きるために。「いま、そこにあるアナキズム」を考える。栗原康×松村圭一郎×森元斎による鼎談「アナキズム会議」では、どのような意見が飛び交うのか。

・【アナーキーな創作】として、吉村萬壱「愛の楽園」、藤野可織「血を流す」、小山田浩子「ヌートリア過ぎて」、王谷晶「AはAのA」、鴻池留衣「じゃじゃ馬ロマンサー」、早助よう子「「もう一つの世界は可能だ」」が掲載。

・2月5日に亡くなった芥川賞作家の西村賢太による遺稿「雨滴は続く」最終回が掲載。惜しまれながらも早逝した稀代の私小説作家、畢生の大作の最終回は必読。【追悼 西村賢太】として田中慎弥「寒い春」、朝吹真理子「ひぐま」も。

・「第52回九州芸術祭文学賞」の最優秀作、白石昇の「足の間」が掲載。五木寛之・村田喜代子・又吉栄喜による選評も。

・第127回文學界新人賞中間発表も掲載される。

群像 2022年4月号

・【創作】では、金原ひとみ「ヨギー・イン・ザ・ボックス」、くどうれいん「あきらめること」、早助よう子「アパートメントに口あらば」、藤野可織「愛情」が掲載。

・アーティスト百瀬文による新連載エッセイ「なめらかな人」がスタート。自明な感覚をゆるがすような映像作品で注目される新進気鋭のアーティストは何を語るのか。東日本大震災後に始まり今年11回目を迎えた「震災後の世界」。今回は立教大学兼任講師の永井玲衣が寄稿。

・小特集として、2月23日に単行本『ヒカリ文集』(講談社)が刊行された、松浦理英子に瀧井朝世が聞き手を務めたインタビュー、沼田真佑による書評が掲載される。

・【追悼】石原慎太郎 西村賢太として、富岡幸一郎、阿部公彦、町田康が追悼文を寄せている。

・詩人・斉藤倫による連載「ポエトリー・ドッグス」が最終回を迎える。

すばる 2022年4月号

・トップは、直木賞作家・西加奈子による「あなたの中から」。

・特集として、「働く」を変えるヒントと題し、森田真生と渡邉格による対談「有限性の中に働く」、長島有里枝と西口想の対談『「ケアレス・マン」モデルからの脱却』、相馬千秋と中村佑子による『「宙づり」にとどまりたい私たち──近代的〈労働〉を打ち砕くアートの可能性』が掲載。

・短編として、星野智幸「石のゆりかご」、藤野可織「いにしえ」、町屋良平「私の労働」、古川真人「明け暮れの顔」、高瀬隼子「お供え」が掲載される。

・大鶴義丹と金守珍による対談「女優という生きもの」も掲載。劇作家であり、芥川賞作家の唐十郎を父に持ち、自身も1990年に「スプラッシュ」ですばる文学賞を受賞している俳優の大鶴。1月26日に10年ぶりとなる最新長編小説『女優』(集英社)を刊行。劇団・新宿梁山泊を主宰し演出家、俳優としても活動する金との対談は、深いものになりそう。

・京都府立大学文学部教授の出口菜摘による論評新連載「アメリカ詩の体温、彼女たちの横顔」がスタート。

以上、2022年3月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。