『源氏物語』に登場する女君・玉鬘たまかずらを供養するための神社が、2018年にも誕生する。名前はそのものずばり「玉鬘神社」で、ゆかりの地である奈良県桜井市初瀬が創建の地に選ばれた。去る9月10日にはすでに地鎮祭も執り行われており、あとは社殿の完成を待つばかりとなっている。ファンにとって新たな整地となるかもしれない。

玉鬘は、『源氏物語』の第22帖「玉鬘の巻」に登場する美女だ。あまりに美しすぎたがゆえに運命に翻弄された悲運の女君として有名で、印象的な登場人物のひとりとして記憶している読者も多いのではないだろうか。初瀬には、そんな玉鬘がひっそりと晩年を過ごした玉鬘庵があったとされている。今回神社が建立される予定の土地は、まさしくその玉鬘庵跡地として伝えられている場所だ。

玉鬘神社の創祀を呼びかけたのは、同じく初瀬にある與喜天満神社の金子清作宮司だった。金子宮司はユニークな経歴の持ち主で、わずか8年前までは物流関係の会社を経営していたという。しかし学生時代に神道を学んでいたことから、55歳にして「好きなことをしよう」と一念発起。息子に会社を譲ると、あらためて大学に入り直して神職の資格を取得した。

與喜天満神社に赴いたのは、知人の宮司からの紹介だったそうだ。当時の與喜天満神社は長らく無人の状態がつづいており、手つかずで荒れ放題の状態となっていた。その再興を託されたのが金子宮司というわけだ。以後、社殿の補修や境内の整備などを地道に進め、現在ではすっかり立派な神社の姿を取り戻すことに成功している。

今になって玉鬘を供養しようという発想は、こうした異色の経歴をもつ金子宮司だからこそ生まれたものといえるかもしれない。土地の歴史や文化にまつわる魅力は、往々にしてずっと住んでいる地元の人々よりも、余所からやってきた人間のほうが敏感に感じ取るものだ。金子宮司は、初瀬で8年間を過ごすうちに玉鬘への思いが年々強まってきたのだと語っている。また、町おこしになればいいとの思いもあるようだ。

世界中に翻訳されている名作古典だけに、『源氏物語』は成立から1000年以上が経過した今も根強いファンが多い。角田光代による新訳版も刊行されたばかりなので、新しい世代の読者も増えていくことだろう。来年以降に奈良を訪れる予定のある源氏ファンは、ぜひこちらにも足を伸ばしてみよう。