去る9月8日が「ハヤシの日」だったことを、世間のどれほどの人が知っていただろうか。

ここでいう「ハヤシ」とは、日本生まれの代表的な洋食のひとつ、ハヤシライスのことだ。考案者とされる早矢仕はやし有的ゆうてき(1837-1901)の誕生日が9月8日だったことから、この日がハヤシの日ということになっている。もっとも、この記念日が制定されたのはつい昨年、2016年のことだった。まだまだ一般にはあまり浸透していないのが実情だろう。

だが、はめにゅー読者であれば話は別だ。なにせはめにゅーでは、昨年9月に公開した「ハヤシライスの日に丸善ジュンク堂書店がレトルトハヤシを新発売」というニュースを皮切りに、たびたびハヤシライスに関するニュースをお届けしているからである。

いまだに安定したPVのある2016年9月9日のニュース

この記事への反響は当初それほどでもなかったが、1年をかけてじわじわアクセスを伸ばし、現時点ではめにゅー史上歴代5位の総アクセス数を記録している。

これだけ関心が高いからには、ただニュースを出しておしまいというわけにはいくまい。丸善のレトルトハヤシを実際に食べて感想を書くのは、ニュース執筆者の責務とすらいえるのではなかろうか? ましてや筆者は、はめにゅー界隈で最も「食」へのこだわりが強い(どちらかといえば食べることより作ることへの情熱のほうが強いが)ことでもお馴染みだ。

というわけで、ハヤシの日からは1週間ほど遅れてしまったが、レトルト版の発売1周年を記念して実食レポートをお届けしよう。

 

丸善とハヤシライスの関係をおさらい

実食に入るまえに、そもそも「どうして丸善がレトルトハヤシを発売したのか」という点を簡単におさらいしておきたい。

丸善といえば、読書好きでなくともお馴染みの老舗書店チェーンだ。本・雑誌以外にも文具や事務用品の取り扱いはあるが、食品のイメージは薄いという人も多いことだろう。しかし実は昔から飲食事業も展開しており、現在も東京や京都にはカフェ併設の店舗がいくつかある。そしてそこの看板メニューは、今も昔もハヤシライスだ。なぜかといえば、丸善の創業者こそが早矢仕有的その人だったからである。

丸善ジュンク堂書店「ハヤシの日」特設サイトより

慶應義塾で福澤諭吉に学んだ経歴をもつ早矢仕は、ヘボン式ローマ字でお馴染みのジェームス・カーティス・ヘボンとの交流もあるなど、西洋文化への造詣が深かった。そのため、家に友人が訪れるとしばしば洋風の牛肉煮込み料理を振る舞ったという。ただ、医師でもあった早矢仕は栄養バランスを考えてタマネギなどさまざまな野菜を加え、そこにライスも添えた。そのオリジナル料理は友人たちのあいだで評判となり、やがて誰ともなく「早矢仕ライス」と呼ぶようになる。これが今日に伝えられるハヤシライス誕生秘話だ。

このエピソードをもとに、丸善では昭和期からレストランでハヤシライスを提供しつづけてきた。また、1989年には創業120年を記念して缶詰入りのハヤシソースも販売開始している。そうした流れを汲んで昨年誕生したのが、レトルトパック版のハヤシだというわけだ。

 

1食あたり700円!ハードルは否が応でも上がる

さて実際の商品である。丸善のレトルトハヤシの正式な商品名は、「新厨房楽レトルトブック ハヤシビーフ」という。丸善らしく本を模した豪華なパッケージとなっていることから、「レトルトブック」と名づけられているわけだ。数える単位も1冊、2冊となっているのがなんともユニークである。

見た目は完全にハードカバーの本!

値段は、1冊2食入りで1,300円(+税)。1食あたり約700円という計算だ。本格的な洋食屋で外食することを思えばお手頃ではあるが、レトルト食品としてはなかなかの高額といえるだろう。近年はレトルトカレーにしろインスタントラーメンにしろ二極化が進んでいて、味や具材にこだわったものであれば500円を超えてくることも多々あるものの、そのぶんハードルはどうしても高くなる。否が応でも味に期待せずにはいられないところだ。

サイズは文庫より大きくA5より小さい

しかも今回筆者がレトルトブックを購入したのは、オンライン書店honto経由だった。困ったことに通販の場合は、2冊セット(4食入り)からしか買うことができない。つまり、総額2,808円の出費である。ギフトとしてお世話になっている人に贈るのであればちょうどいい価格だが、庶民が自宅で消費するための食品としてはかなり贅沢だ。これでもし不味かったら、しばらく丸善のことを嫌いになってしまうかもしれない。