カロリーの高さは「元祖」の矜持か

期待と不安に腹を空かせながら、いよいよハヤシビーフを温めていく。パウチの裏側を見ると、湯煎で温める方法と電子レンジで温める方法が記載されていた。湯煎の場合は約5分、レンジの場合は500Wで約2分とのことだ。パッケージこそ凝っているが、食べ方に関してはきわめて平均的なレトルト食品といえるのではないか。

なお筆者は、マイクロ波加熱ではレトルト食品のポテンシャルを発揮しきれないという立場をとっているので、今回は悩むまでもなく湯煎を選んだ。温めてから器に移すほうがロスも出にくいので一石二鳥だ。

愛用の青い鍋でぐつぐつと

ついでに栄養成分もチェックしておこう。内容量は200g。大手メーカーのレトルトハヤシやレトルトカレーはだいたい180~200gの範囲なので、これもごく平均的といえる。しかし驚くべきはそのカロリーである。なんと1食あたり289kcalにもなる。最もメジャーなレトルトハヤシといえるハウス食品の咖喱屋ハヤシは200gで170kcalなので、実に1.7倍だ。ここにライスのカロリーもプラスされることを考慮すれば、まったくダイエット向きではない。

驚異の1食あたり289kcal!

参考:ハウス食品ウェブサイトより「咖喱屋ハヤシ」成分表示

といって、炭水化物量がそう変わるわけではない。大きく違うのは、脂質とタンパク質だった。脂質は約2倍、タンパク質にいたっては約3倍も丸善ビーフハヤシのほうが多い。この情報から導かれる答えはひとつ、丸善のビーフハヤシには牛肉がたっぷり入っているということなのだろう。

早矢仕有的が生きていた時代の牛肉は、まぎれもなく高級食材だ。それを踏まえると、早矢仕が提供していた元祖ハヤシライスはソースを楽しむものというより牛肉を味わうものであったように思える。このレトルトハヤシのカロリーの高さは、歴史へのリスペクトの表れだと評価することができるかもしれない。

 

せっかくなのでライスにも一手間

余談だが、今回はせっかくなのでターメリックライスも炊いてみた。高級レトルトハヤシを食べるのに単なる白米というのでは、あまりに芸がないではないか。

インスタ映え!

バターライスという選択肢もあったが、それだと画的にやや地味に思えた。筆者はデザインの仕事もたまにやっているので、せっかくレポートを載せるからにはシズル感も重視したい。イエローに食欲増進効果があることは、今や色彩心理学の知識がない人にもよく知られているだろう。そこで、今風にいえばインスタ映えも考慮してターメリックライスを選んだというわけだ。

ターメリックライスの炊き方はとくにむずかしくない。洗った米をターメリックとバターと一緒に軽く炒めて、あとはふつうに炊くだけだ。ターメリックの量は米1合あたり小さじ1杯も入れれば充分だろう。ただし、先に炒めているぶん吸水力が落ちるので、炊く際にはやや水量を少なめにするとよい。たったこれだけで色鮮やかなターメリックライスの完成である。

炊飯はフライパン派

ちなみに筆者は、炊飯には電気炊飯器でも土鍋でもなくフライパンを使うことにしている。熱が全体に伝わりやすいため短時間で炊けるし、耳を澄ましながら米と対峙することで炊き具合を微調整できるのも便利だ。4~5人分の料理を作らなければならない場合は炊飯器のほうが手軽で実用的だとは思うが、1~2人前程度しか米を炊く必要がない人にはぜひフライパン炊きをおすすめしたい。

適当にググればいろいろ炊き方は出てくるので、興味のある人は一度試してみよう。

 

良質なとろみが引き出す三位一体の旨味

さあ、ついに5分が経過した。待ちに待った実食の時間だ。ターメリックライスをよそった皿に琥珀色のハヤシビーフはよく映える。牛肉もごろごろと入っているし、タマネギも存在感がある。照明と食器次第ではもっと老舗レストランのようなラグジュアリー感を演出できたかもしれない。

具はゴロゴロ、量もたっぷり

スプーンで1口分すくってみると、それだけでソースのとろみの上質さがわかった。ライス1粒1粒に絡みついてしっかりとコーティングしながらも、けっしてベタベタとはしていない。カレーにしろシチューにしろ麻婆豆腐にしろ、質の悪いとろみはまるで水飴のようにスプーンにしつこく粘りつくものだが、糊化したライスの表面にだけ吸い付くという過不足ないとろみ具合は絶妙だ。

おそらくこれは、大量の小麦粉によって強引にとろみを出すという手法を用いていないからだろう。レトルト食品という性質上、さすがに増粘剤不使用というわけにはいかなかったようだが、トマトとタマネギをじっくり炒め煮込むことで少しでも自然なとろみに近づけようと尽力したことが窺える。

おかげで、口に投入したあともハヤシソースそのものの食感と、ライスの食感と、お互いが絡み合った食感とが三位一体となって舌に広がっていった。広義の汁かけ飯はこうでなくてはいけない。肉や野菜の出汁が複雑に絡み合ったスープの旨みは、一緒になにを食べるかによってグラデーションを描くように変化するものだ。わずかスプーン1杯分のハヤシライスが、口のなかでは満漢全席さながらの豊饒な味の広がりを見せてくれる。この時点で当初の不安は霧散した。

実は今回、ハヤシビーフと一緒に同じく「新厨房楽」ブランドのカレービーフも購入しているのだが、この調子であればカレーにも大きな期待ができそうだ。