檀一雄に就いて

山谷感人

エセー

2,169文字

 檀一雄的に酔いながら適当に。

 今や、それさえも旧い檀ふみ、の父親である。顔がそっくりだ。プライベートで逸話が多い作家である。
 太宰治や坂口安吾と交友が深かった故、彼等の他界後、友人として評する太宰と安吾の出版物も多数。安吾に対しては「先輩、先輩」なる腰巾着な態度で敬い慕う姿勢で有るが太宰とは青春時代に山岸外史を含め所謂、三馬鹿と云われた関係で有る為、自由に貶している。なお、太宰の他界後、売れっ子中間作家になった檀一雄と批評家を貫き貧困にまみれた山岸外史との交友は無い。
 太宰との交友に就いては熱海事件。所謂、走れメロスの着眼点になった「待つ身が辛いかね、待たせる身が辛いかね」が有名である。太宰が檀を「金銭を菊池寛に借りて来る」で熱海に置き去りにして全く戻らないから東京に探しに行ったら井伏鱒二と将棋をしていた太宰が発した台詞だ。だがこれは一周廻って美談になっている。
 そもそも、檀一雄が太宰の内縁の妻から「熱海で小説を書いている太宰に金銭を届けて」で受け取ったモノを飲み食いに使ったのは檀一雄である。私も自己取材で、その太宰が宿泊していた、現存する三流作家であった時代なる彼の宿に泊まった事が有るが質素な部屋であった。そこで悶々と執筆していた太宰に檀一雄が東京から「おーい! 金銭を持ってきたぞ」は先が見え見えである。その夜、今はホテルになっている高級天麩羅屋に旅館の番頭も連れて鯨飲し、その後、数日アルコール三昧。やがて当事者の太宰がヤバいと思い檀一雄に金銭を渡し、ちょい東京に借財に〜になる。檀一雄は渡された金銭で悠遊と飲み食いしていたが、例の旅館の番頭から急かされて一緒に東京に行ったら荻窪で太宰が何も識らない井伏鱒二と将棋を指していた訳である。
 宿代やら飲食代のツケは連絡を受けた佐藤春夫が払った。彼は太宰よりも檀一雄を叱ったらしい。「待つ身も、待たされる身も、走ってなかった」
 太宰と檀一雄のユーモアな逸話は多々あるが、それは実際、自身で読んだ方が愉快な故、書物は図書館の地下室に眠っているだろう。檀一雄が太宰の葬儀に行かなかった理由を安吾に延々と述べる箇所も駄目人間作家の心理が見え隠れしていて、苦笑する。
 さて、第二回・芥川賞候補になった檀一雄だが、その後は鳴かず飛ばすであった。兵隊さん行きになって、その後、出生地の九州に戻って結婚して息子を産み商人として暮らそうかなあ(その往時を回顧したヤミ取引きの逸話は面白い、図書館の地下室に有るトコロは有るだろう)の流れなる果て、夫人が病死した、それを書いた。これが所謂、中間作家扱いの檀一雄の数少ない純文学の傑作、リツ子シリーズである。
 だが然し、フェミニストは読まない方が良い、妻が他界して良かった的な箇所もある。ミステリーのように純文学は裏の心情を読み取れないとならない。
 結句、武士の商法で財産を失くしつつあった彼は、やっぱ東京で小説書くわ、で逃げた。一人で。そこで苦難は有ったが、汚いハナシ最早、売れっ子の太宰や他界していた中原中也、その他、慕っていて金銭の世話になっていた佐藤春夫の関係者として原稿の依頼は有ったらしい。良い時代だ。
 やがて直木賞を貰うが要約すると受賞コメントで「へえ、俺が直木賞? 泉下の太宰が聞いたら君が! と笑うだろう。だが然し太宰の師匠である井伏さんも直木賞だしあり難く頂く」 と強烈な中間作家になる皮肉を述べている。

 そこから、娯楽小説を書きながら金銭を湯水のように使い、再婚した妻と産まれた檀ふみ、や、その他の子供達はほっぽらかしの生活は皆さん、ご存知であろう。散歩して来る、で一年いなくなったり、大阪で泥酔して街ごと買おう未遂事件だったり。然し文芸者としては紳士、真摯で例えば長﨑の諫早市にある伊東静雄の弔いに、ちょくちょく音ずれていた写真が残っている。まあ、その後に長崎市の市内、思案橋で鯨飲したとの記述も残っている。往時、テレビが少ない時代、作家は娯楽も兼ねていて莫大の金銭を選ていた。私は昭和中期までの文学者を趣味として調べる癖があるが、誰? コイツ? 中間小説家は至極、贅沢な暮らしをしている。要は現在に置いてはユーチューバーに似ているかも識れぬ。
 だが然し往時のベストセラー作家、源氏鶏太を識っている人は少ないだろう。無論、私もリアルタイムでは無いから、判らなかった。中央小説しか書いていないから納税ランキングの
常連作家だった彼を皆、忘れる。同じ立場の檀一雄が忘れられないのは、ライフワークとして純文学、火宅の人、を他界する直前まで書いていたからだと思う。まあ火宅の人の内容は無論、皆さんご存知の通り、愛人〜家庭放棄〜アルコール依存〜国内を廻る〜海外にも行く〜ホテルで暮らしながら、家庭とは仲良くする、なるクズ私小説である。だが然し純文学にしがみついた檀一雄の如実な悩みがあった。だからこうして、単なる太宰の友達、安吾の子分じゃない作家としての檀一雄が、檀ふみのお父さん? でも名が残っていると思う。

 何故に私が檀一雄のエセーを書いたかと云うと、ルンペンで部屋にテレビがない私はスマホの無料映画を看る故。久しくの映画版・火宅の人は愉快。緒形拳が檀一雄の訳のクズさを熱く演じている。解くに太宰から、一緒に他界しようか? で瓦斯を点けられた後、一人で逃げる箇所、心理を刺激する秀逸な純文学である。

2024年6月10日公開

© 2024 山谷感人

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