酒は魔物

名探偵破滅派『禁じられた館』応募作品

大猫

エセー

1,591文字

トム・モロワって名探偵っぽいけど、他の作品で登場しているんだろうか?

ヴェルディナージュ殺害は「禁じられた館」の脅迫状を借りてはいるが、別の動機から行われた。彼の莫大な財産と館に隠してある銀行家ゴルデルベールの2500万フランが目的である。

犯人は結局隠し扉を使って逃げたのだと思う。
クロドシュに導かれた犯人は館に入り込んですぐにヴェルディナージュを射殺し、地下室へ降りた。そうして地下室の隠し扉から逃げた。隠し扉は閉めたものの、酒棚は回転したままであった。それを執事のシャルルが「酒蔵には誰もいない」と言い張り、自ら下りて行って酒棚を元に戻した。その時に誰かが執事と一緒に入っていれば良かったのだ。水はその時点では隠し通路に溜まってはおらず、脱出後に泥水を流し込んでおいたのである。隠し扉がバレなければそれで良し、バレた場合の保険だろう。

執事のシャルルは犯人を目撃し逃げる現場まで見ていながらそれを言わなかった。犯人に弱みを握られていたからだ。それが単に飲酒癖の復活だとしたら、尋問時に早々に白状するはずだ。殺人犯の嫌疑をかけられても白状しなかった理由は何か? たとえばヴェルディナージュが死んで遺産を相続したら、そのうちの三分の一を譲るから彼を殺してくれ、みたいな証文を書いてしまったのではないか。もちろん酔った勢いでだ。犯行の夜、酒蔵に行ったのは「証文を返す」と犯人に呼び出されてのこのこ出て行ったのではないか。そこで犯行を目撃してしまった。

仰々しく「禁じられた館」と評判が立っているが、実際のところ過去の死亡事件はムッシュー・デルーソー一人である。それも殺人事件だったかどうか立証されていない。

マルシュノワール館には、最初の持ち主の銀行家ゴルデルベールの2500万フランが隠してある。
と、番人のベナールは信じていて、なんとか財宝を探し出そうとしているが、そのためには新しい買主が邪魔である。
二番目の主のムッシュー・デルーソーが偶然にも猟銃事故で死亡した。殺害予告の脅迫状は後からベナールがでっち上げたものだった。そこで殺人事件として捜査されたがもともと事故なのだから犯人が見つかるはずもない。
それに味を占めたベナールは以降の買主も同様の手口で追い出した。

ところがナポレオン・ヴェルディナージュは脅迫に屈しない男だった。
途方に暮れたベナールに声をかけたのが、ヴェルディナージュ殺害を計画した人物である。
本当に殺してしまえばいいとささやき、逃げる算段まで考えてくれた。弱みを握っているシャルルが逃走を手助けしてくれるから心配いらないと。

それは秘書のアデマール・デュポン-レギュイエール侯爵(名前長すぎ)だと思う。館の財宝にも興味があったのは当然ながら、ヴェルディナージュの莫大な遺産にも目を付けており、相続人が執事のシャルル・シャポンであることを知っており、執事に近づいて脅迫ネタに使える証文を書かせた。あるいは職権を利用して不正の類を働いていたかもしれず、その発覚を防ぐためにもヴェルディナージュには死んでもらう必要があった。
アデマールとベナールは入居前の改装工事の際、実は裏で手を組んでいた。仲が悪そうにしていたのはカモフラージュである。犯行当日、殺人予告の最後の手紙が届く前に、ヴェルディナージュにダンスパーティーに行きたいと休暇を願い出ている。最初からアリバイを作っておくつもりだったのだ。

殺害計画を練ったのはアデマールで、実行したのはベナール、過度の飲酒癖のせいで、成り行きで共犯になってしまったのが執事のシャルル。

私立探偵トム・モロワがこれらを暴き出し、シャルルが相続するはずだった財産を取り戻し、見事に任務を果たして終了となるだろう。

 

翻訳では分からないけれど、ダジャレや皮肉など、フランス語が分かるとなお楽しめたのだろうと思わされた。

スペルミスを「禁んじられた」と送り仮名間違いにした翻訳に苦労のほどがうかがえるというものだ。

2024年2月18日公開

© 2024 大猫

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