六人の嘘つきな大学生とそこに混じりたい中年

名探偵破滅派「六人の嘘つきな大学生」応募作品

高橋文樹

エセー

1,277文字

名探偵破滅派「六人の嘘つきな大学生」応募作品。ページ設定の妙により犯人がわかってしまったのだが、そこで私最後に残る「嘘つき」を見つけることにする。ネタバレ注意。

リモートワークによるビールの飲み過ぎでもっぱら集中力が低下しており、最近はレジンコミックスやトゥーミックスといったウェブトゥーンの無料分を読み、課金せず閉じるということをよくしている。課金していないので、肝心のエロシーンは読むことができず導入部分ばかり読んでいるわけだが、その中で気づいたことがいくつかある。まず、居酒屋でチャミスルのような緑の瓶の酒を飲んでいること、焼酎をよく飲むこと、食卓の上に換気フードがよく描かれていること、そして就職活動が苛烈なこと。これらはみな媒体が韓国資本であり、書き手の多くも韓国作家ということに起因しているのだろう。

さて、『六人の嘘つきな大学生』は韓国資本のウェブトゥーンほどではないが、それなりに苛烈な日本の就職活動を描いたものである。人狼を思わせるゲーム要素を盛り込み、六人の最終候補者のうち誰がスピラリンク社の内定を勝ち取るかを密告状によって盛り上げている。

課題として定時された部分まで読むと、すでに九賀蒼太が密告状を持ち込んだ犯人であることが判明している。また、密告を行ったことで九賀自身の目的も達成されている。残る謎としては、唯一まだ嘘をついていない大学生である嶌衣織のついた嘘がなんなのか、ということである。『六人の嘘つきな大学生』なのだから、嶌も嘘をつかなくてはならない。

課題のパートまでで判明しているのは以下の通り。

  • 九賀は六人全員が「クズ」である証拠を集めており、嶌も例外ではない。嶌の証拠が暴露されていれば内定が取り消しになるほどのものである。
  • 嶌はその証拠に心当たりがなく、それゆえに封筒を探している。

これを踏まえ、残り50ページの展開を予想してみたい。

 

まず、嶌がスピラリンクの内定を勝ち得たのは、最終的に波多野に嘘の自白をさせたからである。これは波多野の誤解ではあるのだが、結果的に嶌だけがもっとも利益を得た結果になっている。そもそも高校時代のいじめ自殺に関わった袴田でさえかばった嶌が最終投票段階で自分よりも上位にいた波多野をかばわなかったのはおかしな話だ。これはおそらく嶌に備わっている「意図せずして他人を蹴落として気づかない」という能力の故だろう。

では、証拠はどのように発見されるのかというと、パスワード”jasminetea”によって開封されたZipファイルである。それにより、嶌の入試における不正行為が発覚する。嶌は早稲田大学への推薦入試でもう一人のライバル受験者を蹴落とすために不正を行なっている。ただし、この不正について、嶌は意識していない。自動車で轢き逃げをしたまま気づかずに去っていくような、そんな不正だ。

ラスト、嶌は見下していた他の面接官たちと自分がほとんど変わらない人間だということに気づく。そして、唯一波多野だけが美しい心を持っていたのだと、実らなかった恋に思いを馳せるのだ。

 

今回もいい推理をした。私はそろそろウェブトゥーンの無料公開分のザッピングに戻ろうと思う。就職活動中の女子大生を中年の面接官が手込めにするような作品があるかどうか、探してみたい。

2021年8月23日公開

© 2021 高橋文樹

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