競馬観戦を始めたのが2021年の暮れからだが、観戦に至るまでの過程は非常に長かった。当時からコロナにより各競馬場は未だに入場規制が敷かれている。2021年というと、有観客試合になったとはいえ、解禁された入場者数はGIレースでも1万人にも満たないほどだった。申し込んでみたものの、オークスに落ち、ダービーに落ち、安田記念に落ち、と落選をひたすら繰り返す。秋競馬が始まっても一向に当選する気配がない。ほとんど諦めかけでエリザベス女王杯に申し込んでみたら、なんと当選した、というわけではなかった。
当時はどういう経緯で勘違いしたのか、あるいはただ単に落選が続きすぎてまともに調べる気も起きなかったからか、エリザベス女王杯が府中開催だと思っていた。つまり、当選したのはエリ女ではなく、府中の通常開催だった。重賞レースの日ではない。
それでもレース開催日に東京競馬場に行くのは、これが初めてでそれなりに弾む気持ちだったのは事実だ。特に馬券を買うでもなく、漫然とレースを見るのが好きなので、その日は昼から入り観客席からずっと見ていた。第11レースの頃になると、人もそこそこ入っている。
特に何か推しの馬がいるわけでもなかったので、漫然とターフビジョンを見ていたが、福島11レースの福島記念が始まったとき、いきなり大逃げをぶちかます馬がいて、思わず目が釘付けになった。前半1000メートルが57秒台と、この数字自体は大逃げ馬にはありうる数字だが、そのまま逃げ切ってしまったのだ。まるでツインターボが帰ってきたような馬で、その日はずっとその馬が印象に強く残った。パンサラッサという、ただ一つの海、全ての海という意味の馬だった。なお、エリ女自体はまったく予想外のアカイイトの優勝だった。
パンサラッサを思い出したのは、ちょうどその福島記念から1年目というのもあるが、秋の天皇賞にパンサラッサが出るというのもあった。1年が経つと入場規制も徐々に解除され始め、観戦の当選率も徐々に上がり、GIレースの観戦も増えた。
パンサラッサ以外に出場している馬で気になるものというと、初めて府中で観戦したGIIレースの東京スポーツ杯の優勝馬であるイクイノックス、金鯱賞で豪快に逃げ切ったジャックドールなどだった。パンサラッサは福島記念の後にその年の有馬記念にも出場し、期待通りの大逃げを炸裂させたが、4コーナーで沈んでしまった。それから徐々に活躍し始め、ついにドバイターフで念願のGI馬となった。
私は逃げ馬が無性に好きなのである。特にパンサラッサの逃げは見ていて気持ち良い。だが、予想となると話は別だ。府中の、特に秋の天皇賞で逃げ切った馬は、ここ数十年遡ってもいない。長い府中の直線を、パンサラッサが逃げ切るのは無理だと思った。もし勝つのなら、イクイノックスか、あるいは前年ダービー馬のシャフリヤールか。イクイノックスは今年のダービーで大外枠でも2着を取るなど、今後を期待させる馬だった。キタサンブラックの仔ということもあり、ここでGIを取ってほしいと思う気持ちもあった。
そしてレースが始まった。予想通り、パンサラッサがハナを切った。逃げ馬には不利な府中でも、期待通り逃げてくれる馬だ。パンサラッサが突き放していく。1000メートルは57秒4。かのサイレンススズカの秋の天皇賞のタイムだった。私はそれでも冷めていた。きっと大ケヤキを越える頃に沈む。有馬記念でもそうだったように、と。だが信じられないことに、ラスト200メートルでもまだ先頭を走っていた。
パンサラッサが逃げる。パンサラッサが逃げていく。私はその時、無意識に叫んでいた。「そのまま逃げ切れ!」と。だが、イクイノックスの末脚が切れる。最後に差し切ったのはイクイノックスだった。
レースが終わった後、暫く頭の中が朦朧としていた。イクイノックスが勝った。それはそれで嬉しいはずだ。やっとキタサンブラックの仔がGIを取った。なのに、本当に見たかったものなのだろうか。寧ろある種の後悔があった。なぜパンサラッサを信じられなかったのだろうかと。
もし今年の有馬記念にパンサラッサが出たとしたら、その時はどういう予想をするだろうか。だが香港のレースに出るのでその予想は無意味だが、きっと香港カップでは今度こそ先頭を走り切るという強いイメージが脳裏に浮かんだ。
山谷感人 投稿者 | 2022-11-26 18:30
秋天を、天秋と呼ぶがどうかは、お馬ちゃん好きには延々なるテーマですね。
無論、僕も秋天と呼んでいます。
諏訪真 投稿者 | 2022-11-26 22:53
何でしょうね、何か秋天春天の方が語呂が良さげな気がします。