思ったことを何でも具現化出来る。わたしの脳裏を「ご冗談」と書かれた提灯を持った岡っ引きたちが駆け抜ける。草履で土埃を上げながら、騒騒しく足音を立てている。そうじゃない。目の前を提灯を持った男たちが駆け抜けていく。ちょんまげを揺らしながら。後れ毛を垂らして、息を吐く・そして吸う。何かを叫びそうな空気。だけどそれ以上にもそれ以下にもならない。彼らはわたしの前をただ走って行く。ただ走って行くためだけにそこにいる。ここは江戸時代でない。太秦映画村でもない。白い中古の軽自動車の中。わたしはT字路で信号を待っている。明晰夢と変わりない。わたしが彼らへ意識を繋ぎさえすれば。彼らの世界へ意識を繋ぎさえすれば、そこがわたしにとっての「目の前」だ。この世界に立っている。自覚をする。意識は外へ置いてある。視線だけ、目の高さだけ彼らに合わせるのだ。下りるのだ。そうすれば、そこがわたしにとってのリアルになる。
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