この街のみんなの恋の行方は

幾野温

小説

1,508文字

ある日いつもオゾンモール(ショッピングモール)へ行ってみたら、にこにこイベント広場はラヴラヴ絵馬広場になっていた。わたしたちの恋心は一体何処へ行くのだろうか。

うどんとつけまと靴下を買いにいつものオゾン(ショッピングモール・中)へ行ってみたら、にこにこイベント広場がラヴラヴ絵馬広場になっていた。

張り紙とのぼりを見るに、

・あなたの恋を応援します。

・願い事を絵馬に書いて縁結び祈願!

・絵馬は後ほど、きちんと奉納させて頂きます。

と言うことだったので、恋もしたいし、最近薄ぼんやりとサトーくんのことが気になっている私は、早速長机の前に行って絵馬と油性マジックを手に取った。

絵馬は木製で由緒正しいあの横長五角形で、裏面にはピンクのハートがでかでかと書いてある。

うん、なんだか御利益ありそう!

と、100%の気持ちで思ったわけじゃなく、その内訳は、もしも世界がわたしの100人村だったなら、アンケートを採るとこんな結果になるだろう。

・御利益ありそう(10人)

・御利益あるかも(10人)

・御利益あるって思った方がいい(30人)

・神社側の本気を感じる(20人)

・神社の商魂がたくましい(10人)

・オゾン(ショッピングモール・中)の本気を感じる(10人)

・叶わない願いなんてないんだよ(10人)

以上、村民の総意をまとめると「うん、なんだか御利益ありそう!」になるわけで、結局わたしは「御利益ありそう!」と思うしかない。

そう自分に言い聞かせて、絵馬に対してテンションを上げた私は願い事を書くことにする。見かけた祭りには総て乗っかる主義なのだ。踊るアホ—よりヤホージャパン! ……ナイツが好きなわけじゃない。

私は絵馬にこんな文字を書いた。

「楽しい恋が始まりますように♡ アヤコ」

黒々とした油性インクが木目に沿って少し滲んでいる。

サトーくんのことは、何となく一応恋に近い気持ちを持っているのだけれど、好き!って言い切れるほど気持ちが昂ぶってるわけでもないから、名指しは止めておいた。

これから何かが起きて、私がサトーくんのことをめちゃくちゃ好きになるなら、それで良いと思うし、サトーくんが何でかわたしのことをめちゃくちゃ好きになってくれるなら、それでもいい。

或いは私とサトーくんはこのまま友情を育み続けて、そしていつか別の誰かと恋に落ちるのも良いかもしれない。

つまりなんだって良いんだ。

楽しい恋でさえあれば。

広場の隅には、プラスチック製の透明な箱が置いてあって、そこに記入済みの絵馬が沢山入っていた。

私もその箱の小さな差し込み口から、絵馬を入れて、心の中で手を合わせる。

**楽しい恋が始まりやがれ!**

些か敬意が足りないのは、私が恋の始まりを待ちくたびれてしまっているからだ。

けれどオゾンも頑張るよね〜と私は思う。一体どこの神社と協力しているのか、気になった私は張り紙やのぼりを注意深く見るけれど、そういうことはどこにも書いていない。

まぁいいか、と思って絵馬広場を後にしようとすると、入れ違いでおばちゃんの店員さんがやってきた。彼女は絵馬やマジックを補充している。話しやすそうな人だったので、私は何の気なしに彼女に聞いてみることにした。

「すいません、この絵馬って、どちらへ奉納されるんですか?」

「ヴァルドヴルヴィア神殿です」

「はい……?」

「ですから、ヴァルドヴルヴィア神殿です」

「それって、何なんですか……?」

「ズルーラ教の総本山ですよ」

えっ、ズルーラ教って何!? と思ってそれを聞くべきか否か悩んでいるうちに、おばちゃんは何処かへ行ってしまった。

ばるぶる神殿……? ズルーラ教……? 私とこの街に住む乙女たちの恋心はどうなってしまうんだろう?

そのよくわかんない神殿で、知らない神様に託されてしまうなんて。

……何にせよ、調べてみよう。後でゆっくり、やほーじゃなくてぐーぐるで。

私はうどん売り場を目指して歩き出す。

2021年1月18日公開

© 2021 幾野温

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"この街のみんなの恋の行方は"へのコメント 2

  • 投稿者 | 2022-02-15 08:29

    全体的に緩くて良かったです❗️

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